「形や色」への感性 

こどもからはじまる「つくる」こと。人間にとって、この「つくる」とは何か? 聖心女子大学の水島尚喜先生が思索を綴ります。

なぜ「ゼブラ模様」なの?

 

動物園でこどもたちからもっとも多い質問は、「なぜシマウマには縞があるの?」だそうです。あの不思議な美しい模様は、こどもたちの大きな関心事です。英語で横断歩道のことを「ゼブラ・クロッシング」と言いますが、実際のシマウマの模様は横断歩道のように無機的ではなく有機的な模様です。シマウマの縞については、1870年代以降、進化論が発端となって論争されてきましたが、なぜ縞があるかの明快な答えは見つかっていませんでした。ところが最近になって、これまで仮説として唱えられてきた「カムフラージュや目眩まし」「体温を下げる」「仲間の識別」といった観点から異なった説が発表されました。アメリカ・カルフォルニア大学の研究チームは、蠅の一種で吸血性のツェツェバエが、縞模様を避けて均一面に着地することを発見しました。ツェツェバエは、アフリカ睡眠病という死に至る病を媒介します。人だけではなく、動物と人との間で感染する人獣共通感染症なので、シマウマも感染するはずなのですが、実際にはツェツェバエの体内からシマウマの血液は殆ど検出されていないそうです。「ゼブラ模様」という形や色の属性が、種の生存を左右する重要なポイントになっていたわけです。

「想像と概念」が生まれる場所

ここに2枚の「シマウマ」の絵があります。

Aの絵は4歳の女の子が描いたものです。空には象徴的に虹が描かれ、大地には2頭のシマウマがいます。シマウマの縞は虹模様に擬えられていて、素朴にファンタジーの世界が表現されています。


A (©美育文化協会)


B (©美育文化協会)

 

もう一方、Bの絵は、6歳のインドネシアの女の子によって描かれたものです。嬉しそうに草を食んでいるシマウマは生命感に溢れ、その横縞模様が強烈です。

おそらく二人の作者は、動物園や映像を通して接したシマウマの模様がとても印象に残っていたのでしょう。4歳児さんの方は、以前に見た綺麗な虹に呼応して、シマウマも虹色で表しました。魅力的なゼブラ模様が空想世界へのトリガー(入り口)となったのではないでしょうか。6歳の女児の場合、食事をしているシマウマの姿に惹かれ、生命を維持するための行為をより強調するかのように、力強い記号的な横縞を描きました。図式期(※1)と称される発達段階では、概念的な絵を描くことが知られていますが、この場合は良い意味で「概念的」であるといえるでしょう。

 

この想像したり、概念化したりする思考方法は、一見すると対立する位置にあるように思えます。しかしながら、「芸術と科学」の関係性同様に、これらは文化形成に欠かせないものです。こどもたちの絵の世界では、それらの異なった思考方法が、柔軟に用いられています。個々のこどもたちのアプローチや思考方法は、それぞれに正当性があるのです。

 

「形や色」への感性は、これからの人類の未来を担う原動力となっていくことでしょう。そして、このような感性は、こどもたちに限らず地球上の生物の生存への必須条件なのではと考えています。

 

※1. 4歳から8歳ごろの年齢のこどもは、絵記号のような典型的な形を組み合わせて、図式的に絵を描く傾向があります。形態の特徴的な概念が獲得されたことを意味し、一般的に「図式期」といいます。

PROFILE
水島尚喜先生 みずしまなおき

聖心女子大学教授。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。文部科学省学習指導要領(「美術」及び「図画工作」)作成協力者。元全国大学造形美術教育教員養成協議会会長。現在、美術科教育学会代表理事。ローハンプトン大学(英)、ボローニャ大学(伊)等で客員教授を務める。共編著に『図画工作・美術教育研究 第三版』(2010年、教育出版)など、多数。ズッコファミリアでは、人間にとって「つくる」こととは何かを巡る思索を綴ります。コラムのアイキャッチ画像で、水島先生の背景に写っている壁画は、美術家・田窪恭治さんの『Le Pommier d’Or 黄金の林檎』です。聖心女子大学に掲げられています。

文/水島尚喜

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