質問:絵を描くとき、いつも同じような色ばかり選んでしまいます。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博先生(ひつじ先生)がお答えします。

Q:男の子なのにピンク色が好きで、絵を描くときもピンクや赤系の色ばかり選びます。

女の子が使うような色ばかり使うので少し心配しています。男の子らしさ、女の子らしさを小さい頃から教えたほうがよいのでしょうか。

 

A:「らしさ」にとらわれず、自分で使いたい色や形を選べるようになることが大切です。

成長とともに、世間の価値観やステレオタイプに縛られて表現の幅がせまくなってしまわないように、とくに幼児期は様々な価値観を認めてあげることが大事です。この先自分で選択できる人になれるように、いろいろな表現を経験したいですね。

自分の価値観で決めていい

昔は赤いランドセルは女の子用、黒いランドセルは男の子用と決まっていました。絵の具のセットや文房具なども赤系か青系しかなくて、女の子と男の子用が一目でわかるようになっていましたが、最近では中間色の商品も出てきて、こどもの色の好みも多様になってきました。だからいまは紋切り型に性別によって分けるのではなく、個人の価値観で選べるような幅が学校の中にも生まれてきましたね。


 

男の子が赤やピンクを使ってもいいし、女の子が青を使ってもいいのではないでしょうか。男の子だから、女の子だからこうしなければならないということではなく、自分で感じて、考えて、選択して、自分にとって必要なものを決められることが大事なのだと思います。

 

ステレオタイプな価値観に流されて、女の子だからピンクを使わなければいけないとか、男の子は青を使わなくてはいけないというのは、周りがつくった価値観ですよね。成長とともにそうした既成の価値観に合わせて自分で自分に縛りを設けてしまうことにもつながるので、いろいろな価値観を認めて、自分で選択できるように導いてあげたいものです。

たくさんの経験が“自分”をつくる

たとえば、いつもピンクばかり使っている子に、「今日は青だけで描いてみよう」と色を限定して、その中でおもしろさを感じ取れる場面をつくったり、逆にたくさんの色を用意して自由に選択したりすることも考えられます。

 

「限定することと、選択すること」などを通して経験の幅を広げていくことも大切だと思います。様々な経験をすることで自分の好みがわかってきて、さらに、それが成長とともに変化もしていきます。

 

また、友だちは青が好きで、私はピンクが好きという、互いに関わり合い鑑賞し合いながら、友だちの価値観を感じ取れる場面があると、他のよさも感じながら、さらに自分の好みがはっきりするということもあるでしょう。

 

色だけでなく形でも同じようなことがあります。いつもアニメのキャラクターを描き写したりマンガのような絵ばかり描いたりしている子がいるとしたら、それは自由に見えて自由ではない場合もあります。たとえば紙に絵の具を載せて二つに折りたたみ、開いたときに偶然にできた形からイメージを展開させるような描き方をしてみるとまた違ったおもしろさを発見できますよ。

 

最終的には自分の表したいイメージを自分の中に生み出して、それに合うような色や形を選択できるようになることが大切なので、そのためにいろいろな経験をさせてあげることが大事だと思います。

環境を変化させる

いつも同じ絵になっているなと感じたら、いつも使う色とは違う色の魅力や、いつもとは違ったアプローチで描くおもしろさを味わえるように、意図的に場をつくってみましょう。

 

たとえば、いま道端でたくさん咲いているあじさいの花を一緒に見ながら「この色はどうやってつくるのかな?」と問いかけて、色の美しさや形のおもしろさを感じながら描いてみてもいいでしょう。また、描く以前に、葉っぱを集めたり、並べたり、果物を比べたりして、自然のもつ色の美しさや多様性を感じることができる場面を設けることも大切でしょう。


 

いつも自由に描くということは逆に自分を限定してしまうこともあるのです。ステレオタイプな表現になってしまったり、同じ表現ばかりになってしまったり……。

そこで周りの大人ができることは、 既成概念を崩すような環境をつくり、活動をデザインするということを意識して、こどもに新しい経験をさせてあげることだと思います。

 

いろいろな経験を通して色や形のおもしろさを知ることで、価値観が広がり、表現の幅も広がっていきます。それでも同じ色しか使わないということになると、それはその人の自由であり個性だといえるのではないでしょうか。

 

でももし、強烈な体験があったことである色にとらわれているのだとしたら、それは別の話です。たとえば何か辛いできごとや強烈な体験があって、それからは黒以外の色を使わないというような場合などは、こどもの生活の中でどんなことが起きているのか、気にかけて様子を見る必要があるかもしれません。


 

また、色は、自己表現だけでなく、社会的な意味ももっています。たとえば、お葬式は、白黒の世界です。また、お祝い事は紅白、高貴な色は紫……というように文化的に規定された意味もあります。こどもは、社会の営みの中で、色がどのように使われているか、生活を通して学んでいきます。

 

現代のグローバル化した社会では、世界の文化の多様性も学んでいかないといけないでしょう。異質で多様な価値観を自分の中に取り込みつつ、自分というものを確立していくのは、こどもがこれからの社会を生きていくための大きな課題だといえるでしょう。

 

自分の表したいイメージを自分の中に見つけ、それを基に色や形を選択できるようになることは、単に上手な絵が描けるという以上に、人生を豊かにしていく最も基本的な要件のひとつだと思います。

辻先生のおすすめ本

書名:『じぶんだけのいろ―いろいろさがしたカメレオンのはなし』

著者:レオ=レオニ
訳者:谷川俊太郎
出版社:好学社
価格:1,068円+税
内容:可哀相なカメレオンは一つの悩みを持っていました。どうして他の動物のように、自分の色がないのだろうか? 行く先々、周りの環境で色が変わってしまう……。

 

おうむやぞう、金魚もみんなそれぞれ自分の色をもっている。でもぼくは周りに合わせて色が変わってしまう……と悩むカメレオン。ある出会いをきっかけに発想が変わり、幸せを手に入れます。本当の幸せってなんだろう? 読んだ後、こどもと一緒に話したくなる一冊です。

PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」は、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問について⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

インタビュー写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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