質問:こどもに絵の描き方を教えたほうがいいですか?

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博先生(ひつじ先生)がお答えします。

Q:わたしは絵が苦手なので、こどもには上手になってほしいと思っています。

ものの形を捉えてきちんと描けるように、キットや教則本などを使って、小さいうちから練習させないと上手になれないのでしょうか。

 

A:描くことは、こども自身が手を動かしながら、感じ、考え、自分なりの意味や価値をつくりだす学びの活動です。

大人の考える「上手い絵」を描くことを目標にするよりも、自分で感じ、試行錯誤し、考えて描くことのほうが、たくさんの発見や経験の蓄積につながります。また、美術館に行ったりワークショップなどに参加したりするのもおすすめです。

 

大人の尺度ではからない

まず、絵が「上手い、下手」というのは、大人の価値基準で見て決めているだけなので、気にする必要はありません。大人の考える「上手に」描くことよりも、こどもが自分でいろいろ感じたり考えたりしたことを試し、試行錯誤を通じて自分にとって大切な意味や価値をつくりだしていくほうがもっと大事です。


 

社会に適応するための学びもありますが、大切なのは、自分で感じ、考えながら新しい発見やものを生みだしていく学びです。それは、これからの予測不能な未来の社会をつくっていく、その目標に結びついていく学びなのですね。

 

絵を描くことは、単に将来、絵描きやアーティストになるための勉強ではありません。コラムの第12回目でお話ししたように、絵を描いたりものをつくったりして試行錯誤し、学びながら、多様なものの見方や考え方を育てるのです。 将来どんな職業に就いたとしても、つねに自分にとっての価値や意味をつくりだしていけることが必要で、そのような経験を蓄積していくために絵を描いたりものをつくったりする活動があるのですね。

実は、失敗したりうまく描けなくて悩みながらやることのほうが学びが大きいのです。それは単に模倣するのではなく、自分の頭や心で考えて手を動かしているからです。目先の「上手く描く」という目標よりも、もっと先を見据えてこどもの活動を考えてあげたほうがこどもにとってよいことだと思います。

どう描くかは自分で決める

人間には、感覚的に多様な世界と、ものごとを抽象化してまとめ上げ、言葉や数学的に表現していく世界、その両方があるので、感覚的な多様性と、抽象能力が統合されていくことが大事だと思います。単に教え込まれた法則に従って形を捉えることや、ただ知識を暗記することは、どちらの能力も使っていません。 絵を描いたりものをつくったりする活動は、身体的な感覚を通じて世界の多様性を感じ取り、心にイメージを生成させる分野です。人類の発生とともにあり、何万年も前から人間が繰り返し行ってきたことなので、この先もなくなることはないでしょう。 科学技術が進歩し、これからはAIが様々な分野で活躍していくのでしょう。けれど、プログラミングするのは人間です。人間が想像力をもってプログラミングをつくっていくわけですから、こども時代に絵を描くことやものをつくることは、こうした人間の想像力を根底で支えていくことに寄与していると思います。


 

ただ、単に絵を描けばいいということでもなく、自分が何を目標にするかで違ってきます。上手く描くための技術を習得すること自体が目標になってしまうのは本末転倒と言えるでしょう。とくにこどもの主体性や創造性が入る余地がなくなるのはよくないと思います。 自分なりの目標をもって、それを実現するためにその技術や方法をどう活用するか、このように考えるとまた意味が違ってきますね。

 

それから、案外「偶然の発見」というのもよくあることです。絵の具をこぼしてしまって、面白い形や色やイメージを発見したなどということもあります。感性を柔軟に開いておくと、新しい気づきや発見につながってきます。こういう気分というか、柔軟な精神の状態は、創造のプロセスでは、けっこう大切だと思います。既成概念に心が縛られていると、新しいものは見えてきません。

 

一方で、きちんと習得すべきことはあります。たとえばはさみなどの用具の使い方は、こどもに試行錯誤させる前に安全性を考えてしっかりと教える必要があります。 習得したスキルを使って自分はどういうものをつくりたいのか、表したいものを実現するためにはどのような技能を活用できるのか、といったプロセスを自分で考えることが大切です。

美術館の楽しみ方

家にずっといるとこどもも大人も飽きてしまうでしょうし、親子で楽しんだり学んだりできる場所も必要ですね。動物園や児童館など遊びに行ける場所がいろいろとありますが、こどもの学びにもつながる場所のひとつが美術館です。最近は、「パパ」が、お子さんを連れている姿も見かけます。「がんばれパパ」ですね。ぜひ、楽しくがんばってほしいですね。楽しくないと続かないですから。

 

ミュージアムショップでは、おもちゃ売り場ではなかなか出会えないような、こどもが楽しめるアートっぽいおもちゃもあります。 たとえば「DEDEkit」というキットも面白いですよ。これは、中学生くらいが挑戦して楽しいキットです。もっと小さいお子さんが楽しめるブロックのようなおもちゃもいろいろと開発されているようです。ほかにも、美術館では収蔵品や開催中の展覧会の作品の「絵はがき」を売っています。

これ、たくさん集めるとうれしくなるし、うちのこどもも小さい頃たくさん集めて「アートカード」(※1)のようにゲームをして遊んでいました。素材を使って自分で遊びを生み出すきっかけにもなりますね。


DEDEkit デデキット 考え方のワークショップ 02 【 レイヤーの彫刻 】 価格:1,900円+税  amazonマーケットプレイス内『ARTLOCO(アートロコ)』Yahoo!ショッピング内『ARTLOCO(アートロコ)』にて販売中

最近は展覧会の関連イベントのワークショップや、NPO法人などが主催するワークショップがいろいろとありますので、そういうものに参加するのもおすすめです。公園に行くような気持ちで気軽に参加するといいと思いますよ。

展覧会関連のワークショップは、自分でつくったりやってみたりすることで展覧会のテーマを体感するような内容になります。 たとえば東京国立近代美術館の「ゴードン・マッタ=クラーク展」(2018年6月19日~2018年9月17日)で行ったワークショップでは、実際の建物を裁断した作品があったので、お菓子の箱を家のような形にして穴を開け、そこから覗きながら、近代美術館の中庭などを撮影して、最後にみんなで鑑賞するというワークショップをやりました。すごく楽しかったです。

展覧会の企画や参加するこどもの年齢によって内容が変わりますが、いろいろな美術館の展覧会で取り組んでいますので、探してみてください。

また、お住いの近隣の大学などでもいろいろ開催しています。私が勤務している帝京大学でも「ライフロングアカデミー」という講座でワークショップ(※2)を行なっています。アンテナを広げていろいろと探して親子で楽しんでください。

 


※1:※1 美術館の収蔵作品など、美術作品を用いて美術的な意識でもって編纂された数十枚のカードセット。美術館が制作、貸し出し、販売しているものや、アートカードとして市販されているものもある。主に鑑賞教育に使用される。 ※2 2019年度 帝京ライフロングアカデミー春期公開講座 『No.3106 コラグラフ(版画)を楽しもう!』。6月8日開催。申し込み締め切りは終了しています。

※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

 

辻先生のおすすめ本

書名:『いわいさんちへようこそ!』

著者:岩井 俊雄

出版社:紀伊國屋書店

価格:1,500円+税

内容:キャラクター商品やハイテクなおもちゃがあふれる世の中。でも、岩井さんちでは、父と娘が一緒になっておもちゃを手づくりしながら、新しい遊びを考え出します。ほしい物は自分でつくる、岩井さん親子のフォトエッセイ。

 

こどもがほしがるおもちゃを買い与えるのではなく、一緒におもちゃをつくり、新しい遊びを考えることは、「手を動かしながら、感じ、考え、自分なりの意味や価値をつくりだす」という辻先生の言葉が岩井さん親子の姿に重なります。こどもと一緒につくりたくなるアイデアも満載の一冊です。

PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」は、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問について⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

インタビュー写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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