質問:こどもがこんな絵を描いても大丈夫でしょうか?

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:こどもが「怖い絵」を描いていました。

大人から見て少しゾッとするような絵や暴力的な絵を描くには何か意味があるのでしょうか? 保護者としてどう対処したら良いでしょうか。

 

A:あまり神経質にならないで、絵やこどもの様子をまずはよくみて、感じ取るようにしましょう。

攻撃的な絵の意味を考えてみましょう。攻撃的な感情は、生物である人間ならだれでももっているものです。それがこどもの表現にも出てくるのは当然だと考える必要があります。表現することは、マイナスの気持ちを昇華させる作用があるんですね。絵の具を激しくぬりつけることでスカッとすることだってあります。こうした描き方もある種の攻撃性の表れです。

また、心の内部のモヤモヤとしたものを目にみえる形として外に吐き出すことで、心が落ち着くということもあるでしょう。これは、外部に形や色やイメージとして表すことで、自分の行為や活動がフィードバックされ、自分というものを再確認することにつながってきます。そこには、主観的なものが客観化され、冷却される作用があると言えるでしょう。表現活動がこうした激しい感情をすくい取ってくれれば問題ないですよね。むしろ、安定剤になるとも言えます。また、次の活動へのきっかけにもなるとも思います。


 

けれども、みる者に違和感を感じさせるような表現が続く場合は、少し注意が必要かもしれません。

こどもが体調不良だったり、精神的に不安定だったり、何かストレスを抱えていたりすることがあるかもしれません。そのような時には、こどもの様子をよくみてあげてほしいと思います。こどもは、絵を通して自分の気持ちを発信しているからです。「仕事が忙しくて、このところあまりかまってあげられなかった…」など、心当たりがあれば、こどもへの接し方の是正につながっていきます。こどもの絵は、その子の表現であるとともに、親との関係や周囲との関係を映し出す「鏡」であるところもあります。こどもは自分を取り囲む環境のちょっとした変化にも敏感なので、注意してみてあげてほしいですね。

 

色づかいからみるこどもの心

昔から児童画の色彩心理などで、「紫」や「黒」ばかりをつかうこどもは、どこか心に問題があるなどと言われてきました。でも、黒や紫、にごった色を使っていても心理的にまったく問題がない場合も多くあって、科学的な因果関係はないかと思います。「この色をつかっているから、この子はこうだ」などと、一義的に決めつけないほうがよさそうです。

それから、たとえば、「紫」を高貴な色とする文化もあります。色には、ひとが生きているそれぞれの文化と結びついた価値を担っている側面もあるのです。

また、ステレオタイプなきれいな色ばかりを使う子は、既成概念で固まっているという場合もあります。こうした場合は、もっと柔軟な感情や感覚の広がりが必要だと思います。

色に限らず、フォルムが荒れていたり、弱かったりする場合もあります。いずれにせよ、こどもの心を、絵だけで判断するのではなく、こどもの生活と描かれた絵の両方をみて、理解して行くことが大切でしょう。

 

具体的な形が描かれていない

大人が勝手に先取りしてイライラしているだけで、その子に任せればいいでしょう。でもよくみてみると、何か表現はしているんですよ。点を並べているだけでも表現です。リズムや色の並び、間隔、そういうことでも表現しているので、そういうもののおもしろさをみてあげれば、いずれは形が出てくると思います。待ってあげるのも大事なことです。


A:具体的なものが描かれていない絵

 

Aの絵には、イメージが描かれていません。「絵はイメージが表されたもの」として固定概念でとらえてしまうと、何も表していないように感じ、不安に思ってしまう大人がいるかもしれません。けれども、この子は、色自体に興味をもっているとも考えられます。また、クレヨンを横にして描くと、線ではなく、面を塗ることができます。この子は、クレヨンに触れながら、いろいろな描き方の発見を楽しんでいると思います。色を塗ること自体をいっぱい楽しんでほしいと思います。

つくったものを壊してしまう

壊す快感ってありますよね。積み木を壊してなんともいえない気持ちよさがあるような。自分や友だちの身体を壊すのではなく、代わりに積み木を壊せば迷惑はかかりません。絵だって、描き間違いや、できた絵が気に入らないときに上からぬりつぶしたっていいんです。ぬりつぶしたことで、新たな表現をみつけられるおもしろさもあるのではないでしょうか。


B:描いた顔を青色でぬりつぶした絵

 

Bは、一度描いた顔を青色でぬりつぶした絵です。そこには、これでは気に入らないという自我の芽生えがあるようです。また、むしゃくしゃした感情を何かの拍子にぶつけたのかもしれません。けれども一方で、青の塗り重ねや塗り残しなどが、異なる別のイメージを誘発するようにもみえてきます。破壊は、次の創造を引き出すきっかけにもなるのです。

 

PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部准教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。

写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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