質問:こどもが上手に絵を描けなかったり、工作がうまくつくれなかったりすると、つい口出しをしてしまいます。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:こどもがつくっているとき、上手につくってほしくて「もっとこうしたら?」 と、口出しをしたり、手助けしたりしてしまいます。

「完成度が高い上手なもの」をつくることが大事と考えてしまいます。こどもの描いたものやつくったものを肯定的に見ることができません。親は口出しや手助けをしてもいいのでしょうか。

 

A:こどもの表現と、大人が考えている表現は違うことを理解しましょう。けれども、大人がしてもよい「手出し・口出し」もあります。

こどもが⼤きな画⽤紙に⼩さな点をひとつ描きました。よくわからなかったので、「これは何?」と聞いたら「秘密の宝物だよ」と答えくれたことがあります。⼤⼈が⾒てよくわからなくても、こどもにとっては⼤切な意味が込められている場合があります。⼩さく描いたから、よくわからないから「造形的に下⼿だ」というのは間違った⾒⽅、考え⽅です。こどもの絵を⾒るときは、そこに、描いた本⼈の気持ちや意味を汲み取ることがとても⼤切だと思います。そのためには、こどもの⼼に寄り添って、描かれた絵を⾒ることが⼀番です。


画面左側の絵は、中央部分はしっかりと塗られているが、外側にいくにつれだんだんと塗りがあらくなっている。

 

この絵(画面左側の⼤きな絵)は、まずりんかく線を描いて、内側の⾯を塗るように親が⾔ったのでしょうね。最初はまじめにやっているけど、⾔われたことだから徐々に飽きてくるというパターンです。真ん中の線だけで描いた絵(辻先生が示している絵)からは、表情がすっと伝わってきますね。線だけの表現でも、こどもの気持ちが伝わってきます。

 

こどもは本当に親切です。だから最初は、親や教師に合わせてくれるんですよ。付き合ってくれるんですね。でも、こうした活動は、⾃分で感じて、⾃分で⼯夫して描いたものではないので持続しないのです。こども⾃⾝の「こうしたい」という思いがあって、表現活動は進んで⾏くし、深まっていくのです。

 

こどもの表現と大人の考え方の違い

一見、白い部分が目立つ絵。けれど細部にまでこだわって描かれており、嬉しそうな気持ちまでもが伝わってくる。

 

この絵は、⼤⼈には落書きのように⾒えるかもしれません。でも、よく⾒ると、⼿をつないでうれしそうな様⼦を描いているのがわかります。⼿を繋いでいるのは、お⽗さんかな? 友だちかな? 動物園に⾏った楽しさが伝わってきます。真ん中には動物がいて、動物の⾜先や⽑の様⼦、檻の周りの様⼦が、実に細かく描かれています。

 

パッと⾒て、構図が画⾯に対して⽚寄っていることや、図柄が⼩さいことを気にする⼤⼈もいるかもしれません。けれども、こどもは、描くときに画⾯の⼤きさを理解してから構図を決めているのではないのです。この絵の場合は、恐らく最初に動物を描いて、そこから周囲に世界が広がっていったのでしょう。こどもは、隣り合うもの、「隣接」したものを関係づけながら、物語を語るように描いていくのですね。これがあったら隣にこれがある、そして、これがあって、そうだ、お⽗さんと⼆⼈で⼿を繋いで⾒たんだよね…という感じです。

 

画⾯全体を均等に⾒渡して描くというのは⼤⼈の考え⽅ですね。⾊の構成や、全体の中で何をどう位置づけるか、そんな考え⽅では、こどもは描かないのです。こうした表現の質の違いを理解すれば、⼤⼈が⾃分の基準で、⼝や⼿を出してしまうことはなくなると思います。

 

多様性を受け入れよう

こどもの表現を理解する⼀つの⼿⽴てとしては、いろいろな芸術家の多様な表現を⾒るのもおすすめです。例えば、ピカソ。こどもの表現のおもしろさを⾃分のアートの中に取り込んで、新しい創造世界を⽣み出したアーティストです(※1)。ピカソの絵を⾒ると、「正⾯向きの⽬」と「横向きの⿐」が同居しています。だから「変な絵」に⾒えるんですね(笑)。でも、ピカソは、これまでの固定された視点から描いたのではなく、いろいろな視点から、つまり、こどもと同じように、多視点から、絵を描いているのですね。ピカソは⼀例ですが、多様な作品、表現に触れることで、 今までとは違うものの⾒⽅、感じ⽅に気づくことがあります。ぜひ、お⼦さんと美術館に⾏って、語り合い楽しみながら、ご⾃⾝の⾒⽅を⼀緒に広げてみてください。

 

親がしていい「手出し・口出し」

とはいえ、「⼿出し」と「⼝出し」がすべてダメということではありません。こどもは、⼤⼈に⽐べれば、圧倒的に経験や情報が⾜りません。こどもが「こうしたい」と思っていても、できないことがあります。そのときは大人が教えてあげればいいと思います。⼿を差し伸べてあげることで、こどもの思いが実現できたら、うれしいですよね。カッターやハサミ、ノコギリなど、安全を伴う⽤具もあるので、材料のことや、技術的なお⼿伝いやアドバイスは、必要だと思います。

 

また、精神⾯でも、⼤⼈が「失敗しても⼤丈夫だよ」という気持ちで、⾒守ってあげることで、こどもは、安⼼して、表現活動にチャレンジできると思います。こどもの精神的な⽀えになってあげられるのは、こどもの⾝近にいるあなたという存在なのですから。

 


※1:パブロ・ピカソは「ようやく子どものような絵が描けるようになった。ここまで来るのにずいぶん時間がかかったものだ」という言葉を残している。(出典:"The Hand of a Stranger" (Journal D'un Inconnu) by Jean Cocteau )

 

※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

参考書籍
書名:『芸術あそび』
ドイツのハノーヴァー・シュプレンゲル美術館の、楽しいワークショップの実践の様子が描かれています。
著者:ウド・リーベルト
訳:長田謙一+吉田宏
出版社:日本文教出版
定価:3,985円
PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。

写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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