質問:こどもが何をやってもすぐにあきたり、放り出したりしてしまいます。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:こどもが工作やお絵描き、遊びをしている途中であきたり、「もうできない」 と投げ出したりしてしまいます。どう声をかけたらよいのでしょうか。

たとえ遊びでも、こどもが途中で放り出したときに、親がそれを認めてしまうと、忍耐力のない子になってしまわないでしょうか? 大人のほうから「もっとこうしたら?」とアドバイスしたり、続けるようにうながしたりしたほうがよいのでしょうか?

 

A: 活動に集中できる環境が整い、自分の中にチャレンジしたくなる気持ちが芽生えてくると、こどもは「やる気」を出して活動に取り組むと思います。

環境のなかで

学校や造形教室という環境は、「ここは絵を描く場、時間なんだ」というメッセージを暗黙のうちに伝えてくる場所です。 だから、通常、こどももその場の雰囲気に引き込まれて活動するということがあると思います。一方、家庭の場合は、そうした制度的な環境ではないので、何かやりたい、何かつくりたい、描きたいという動機がもっと純粋に現れる場です。

 

 

家庭での工作やお絵描きは、さまざまな遊びの中の選択肢のひとつです。いろいろなおもちゃがあって、家族もいる。お庭には蝶々が飛んでいる…。描くこと以外におもしろいことやもの、人がいたりすれば、そちらに目がいくのは自然なことです。

 

こどもが集中する時間は、大人が思っているほど長くないんですよ。いまは描く時間だから、目標を決めてずっと描かなくてはいけないという学校的な考えは、大人の感覚かもしれません。とくに家庭は学校ではないので、より自由な形で活動するものだと思います。

 

幼児期は、アートが分化してあるのではなく、様々な生活と密接に関係している。花や虫などの自然に触れたり、体を動かしたり、音を聞いたり、絵を描いたりすることが、一体化しています。親としては、こどもの興味や関心を引き出せるような環境を整えてあげることと、こどもが安心して活動できるように見守ることだけで十分だと思います。こども時代の経験は、あらゆるものに立ち向かうときのベースになっていくと思います。そこで育まれた感性や態度が、今後の人生の基本になっていきます。

 

挫折も大切

この紙工作は、途中でやめてしまったのかな? きちんと色を塗っていて、もう十分できているようにも見えますよね。上部に切り込みが入っているのは、きっと、屋根をもっと高くするか、とんがり屋根にしたかったのかもしれませんね。


画用紙を筒状にしてつくられたちいさな塔。窓が開いていたり、屋根に色が塗られていたりするなどの工夫がみられる。屋根上部には切り込みが入れられている。

 

こどもが頭の中で「こういうものをつくりたい」と思っていても、実際にはできないことがあります。たとえば、鋳型にはめてつくるようなものを紙コップではつくれません。「できること」と「やりたいこと」がかけ離れていると、こどもが「できない」とあきらめてしまっても仕方ないでしょう。そんなときは大人の出番です。大人がアドバイスしてあげたらよいと思います。

 

でも、僕は「挫折」することも大事だと思っています。「挫折」という言い方は大げさかもしれませんが(笑)。つまり「失敗」を重ねることによって、新たなものが発見、獲得できるのです。つくりたいものがいまの自分の技術ではできないと、実感することは大切です。そのほうがこどもはおもしろいですよ。なんでも簡単にすぐ成功してしまったら、こどものためによくないです()

 

こどもが自分でおもしろいと思ったことは、挫折してもまた始めます。続けていくうちに経験が積み重なり、いろいろな戦略を自分なりに生み出し、試す中で実現できるようになっていくのです。こうした過程がむしろ大切だと思います。短い時間で事柄を見るのではなく、ある程度の時間の幅をもって見ていけば、こどもの思いや技術が深まっているのがわかるはずです。 だから、「待つ」ということはとても大切なことですね。すぐに成果を期待しない。親にも心の余裕が必要ですね。

 

こどもがあきない課題とは

ヴィゴツキー(※1)という心理学者が提唱した「発達の最近接領域」という考え方があります。現時点で、こどもがひとりで解決できる領域と、親などの他人の力を借りて解決できる領域があり、このふたつにはズレがあります。こどもは、課題が簡単すぎるとつまらなくて、むずかしすぎると挫折してしまう。だから、いまできることより少し上の課題や、ちょうどよい抵抗感のあるものを与えると、こどものやる気が出て、成長するという考え方です。図工でもこうした考えは応用できそうです。


 

「この子は、今までこうした経験しているから、次はこれくらいできるかな? じゃ今度はこんなのを提案してみよう」「まだ粘土は触ったことがないから、粘土を用意してみよう」というのは、こどもの成長過程を見ている親が一番よくわかることだと思います。普段の様子から、ここまでできるようになったと知っておくことはとても大切です。そして、いまできることより少し抵抗感のある課題にチャレンジできれば、きっとやる気が出ると思います。また、ご近所のお友達と一緒につくる機会を設けてもいいでしょう。他者との交流から刺激を受けて、自分の活動も広がっていきます。

 


※1: レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー(1896〜1934)。旧ソビエト連邦の心理学者。 ヴィゴツキーは、社会的な交流の視点からこどもの認知の発達を考えた。

 

※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

参考書籍

書名:『驚くべき学びの世界 レッジョ・エミリアの幼児教育』

イタリアの都市レッジョ・エミリア。第二次大戦後、地域の共同保育運動として始まった「レッジョ・エミリア・アプローチ」は、こども個人の意志や個性を尊重し、個々の感性を生かすことが最も重要である理念のもとに実践されている幼児教育実践法です。本書は、レッジョで実際に行われたプロジェクトと、こどもたちの作品を紹介した貴重な一冊です。

監修:佐藤学

編:ワタリウム美術館

出版社:東京カレンダー

定価:3,800+

PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。

写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

top

FOLLOW US

公式SNS