質問:こどもが集まってお絵描きや工作をしているとき、ほかのこどもと自分のこどもを比べてしまいます。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:ものづくりのイベントや、幼稚園・保育園の公開授業などで、自分のこどもがほかの子に比べて、どこまでできているのかが気になってしまいます。

完成したもののクオリティだけではなく、きれいに色を塗る、きちんとはさみを扱えるなど、動作までも比べてしまうことがあります。こどもができる/できないことは、個性と捉えてもいいのでしょうか? それとも成長が遅いのでしょうか。もっときちんとできるように、注意したり、親が教えたりしたほうがいいのでしょうか。

 

A: 大胆に描く子、緻密に描く子、それぞれこどもによってタイプが違うというだけのことです。それに優劣はないということを認識しましょう。

こどものタイプ

たとえば、自分の気持ちを描画材に載せて、対象の形にあまりこだわらず思いきり絵の具やクレヨンを塗りつけ、描く子がいます。一方で、対象の形の再現にこだわって、どこかで見たモデルに近づけるように形をなぞっていく子がいます。

 

前者は、対象を主観的に、感情や雰囲気で捉える触覚的なタイプです。また、後者は、対象を視覚的、客観的に捉える視覚的なタイプと言えるでしょう。対象を捉える際に、こどもそれぞれにタイプがあると言われています。つい大人は、視覚的なタイプを優先しがちになりますが、そこに優劣はありません。


同じ保育園に通っている3歳のこどもが、一緒に行った遠足の思い出を描いた絵。

 

2枚の絵はどちらもピクニックの思い出を描いた絵です。左の絵はシートにお弁当を並べて友だちと並んで座ったところを、たくさんの色を使って描いています。きっとお弁当の時間が楽しかったのでしょう。

 

右の絵は、空が青くて芝生が緑できれいだった様子を描いています。天候や緑に囲まれた環境に反応していて、色を塗り込んでいるところにこどもの思いを感じます。

 

具象的に再現できている、再現できていないではなく、そこにこどもの思いがあることを認めるのが大切なのだと思います。50人のこどもがいたら、そこには50通りのこどもの思いと表現があるのです。画用紙の上には、こどもの思いが描かれている。それが大事なんです。

 

周りの大人にできることは、こどもの存在を見てあげるということです。だれだって比較されるといやになりますよね。大人の側にある尺度や、それに伴う技能の高低で「上手・下手」と言われると、表現すること自体がいやになってしまうでしょう。そうならないためには、描いているその子自身に向き合うことが大事だと思いますね。そして、たくさんよいところ、面白いところをみつけて、たくさん褒めてください。

 

技術と表現

端的にいうと、技術の差は、経験の差なのです。たとえば、はさみを上手に使えるかどうかについては、切った回数によるのです。1000回切った子が、3回しか切っていない子よりもうまいのは当然です。ただ、はさみで切ることを単なる技術としてとらえるのではなく、はさみを使うことを楽しめて、自分の表現につながる方法だと気づかないと、ただの訓練になってしまいます。

 

けれども、ちょっとした技術的な問題でつまずいている場合もあります。たとえば、ハサミの先っぽで切ってしまうため、思ったように切れない。また、ノコギリの刃をまっすぐ引いていないので、円滑に切れないなど…。そんなときは、周囲の大人がアドバイスしてもよいと思います。安全面も含めて、こどもが自分で補えない部分は、支援が必要な場合もあるでしょう。

 

描くことについても、細かい場所を塗れるようになるとか、枠内からはみ出さないように塗れるようになるというのは、表現していくうちにうまくなっていくので、気にすることはありません。楽しみながら経験する場があれば、何度も繰り返し道具を使っていく中で上手に なっていくし、自然と技術も成長していくものです。

 

こどもにしか描けない絵

このコラムの第一回目で、発達の過程でこどもの絵は「線(スクリブル)から円をコントロールできるようになり、次第に自分の描いた形と背景が区別されてイメージが立ち上がる」と言いました。それから、紙の上に「基底線」がでてきます。それが地面となり、空間を発見していくんですね。

 

3歳以降は「児童画の黄金期」と言われています。僕は小学校3年生くらいまで続くと考えています。この時期は、独特な空間表現の仕方が出てきます。こどもが手をつないで輪になっている友だちの姿を俯瞰で描くことがありますよね。


 

または、校庭を描くときに、独自の空間の捉え方で木を描くことがあります。これはとてもわかりやすいですね。遠近法で描いてしまったら、なんだかわからない。

 

 

ほかには、「レントゲン画」というのもあります。バスや家の中にいる人の様子がわかるように描いた絵です。このように、こどもはいろいろと工夫しながら、自分の感じていることや表現したいことを紙の上に描き出していくのですね。


 

遠近法を使って写実的に描く方法はヨーロッパから来た文化で、それが唯一ではないのです。とくに日本人は、絵巻物や屏風絵から、俯瞰図法のような表現には慣れているはずです。遠近法も俯瞰図法も表現の多様性のひとつです。

 

こどもの表現の中に多様性を見ていくことで、大人自身もものの見方を広げていくことができるでしょう。こどもは、いつもいろんなことをやっている。大人は、その面白さをみつけることが大事、ということですね。

 


※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

辻先生のおすすめ本
書名:『フレデリック ちょっとかわったのねずみのはなし
仲間ののねずみたちが冬に備えて食べ物を貯えているのに、フレデリックだけは何もせず、ぼんやりしていました。やがて寒い冬が来て…。
『スイミー』『あおくんときいろちゃん』など、数多くの名作を手がけるレオ=レオニによる絵本。コミュニティの中で一人ひとり違うことについて、アーティストの存在価値についてなど、さまざまなメッセージがかわいいのねずみフレデリックを通して描かれています。ぜひ、親子で読んでみてください。
作:レオ=レオニ
訳:谷川俊太郎
出版社:好学社
定価:1,456円+税
PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

インタビュー写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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