質問:こどもがお絵描きや工作にまったく興味を示しません。情操教育ができずにクリエイティブな感性が育たないのではないかと心配です。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:こどもがゲームやおもちゃばかりに夢中で、絵や工作といった遊びをしません。こどもの発想力が育まれないのではと、気になります。

これからたくさんの職業がAIに取って代わられる時代だからこそ、クリエイティブであることがとても大事だと考えています。将来を生き抜くための発想力を鍛えるために、絵や工作に興味を持ってほしいのですがうまくいきません。

 

A: 発想というのは、頭の中に突然、浮かび上がるものではありません。素材に触れたり、自分で、体やものを動かしたりしながら活動する中で、「こうしたい」という思いが生まれてくるのです。だから、ものに触れて遊ぶ経験を積むことが大事だと思います。

単に、お絵描きや工作をしないからクリエイティブに育たないのではないか、という考えはちょっと飛躍している気がしますね。どんな遊びでも、こどもが遊ぶという行為の中には、イメージを膨らませたり、工夫して何かをしたりというクリエイティブな要素が含まれています。たとえば、市販のおもちゃやものづくりキットのような大人がつくったものでも、こどもは自分で操作しながら、見立てたり、物語をつくり出したりして遊んでいると思います。

 

 

また、昔よりも人工的な環境で育つ現代のこどもたちが、スマートフォンなどの電子機器や既製のおもちゃで遊ぶことは必然というか、避けて通れないことだと思います。ただ、そのときに受動的にならず、ツールとして能動的に使いこなすことが大事ですね。時間を決めて使用するなど、電子的なツールとほどほどに付き合う知恵も求められるのではないでしょうか。

 

自然の素材のもつ力

とはいえ、やはり自然の素材と触れ合って遊ぶ経験は大事だと思います。これは、今日、散歩の途中で見つけた「ヨウシュヤマゴボウ」(※1)という植物の実です。つぶすと色がついて、水に入れるときれいな紫色の色水ができるんですよ。これで絵を描くこともできます。自然物のおもしろさを感じ取って、何ができるかを考えるのが楽しいのです。

 

夏〜秋にかけて実がなるヨウシュヤマゴボウは、市街地でもよく目にする植物。幼稚園や保育園などで「色水遊び」の材料になることも。アメリカでは別名インク・ベリーと呼ばれています。有毒のため、決して食べないようにしてください。コラム文末の注意事項をご確認ください。

 

自然は、価値観をフラットにしてしまう力をもっているからなんですね。“意味”がない世界に連れ戻してくれるので、そこから自分で自由に意味を立ち上げていく。そういう遊びは、自然に触れるなかでしかできないと思います。自然物はとても多様で、触れているだけで体中の感覚が刺激されます。感覚というものは、世界を多面的にとらえるための窓口であり経路なのです。いろんな自然の素材に触れることで、ものごとを深く感じて、考えて、捉えることのできる豊かな心が育つのだと思います。

 

今は身近に自然に触れる機会が減ってきています。自然に触れる経験を生活の中に組み込むのは大人にしかできないことなので、親や教師、周りの大人が、そうした場を設定することは、大きな課題だと思います。自然素材に触れさせるために、こどもをキャンプに連れて行かないと、と思うかもしれませんが、身近にある土や木、どんぐりなどの木の実、水も自然物です。これらに触れることで、一つひとつの素材やものが異なっていることを知る機会が得られます。

 

たとえば、りんごは、言葉にすると「りんご」というひとつの言葉に括られてしまいます。でも、一つひとつのりんごは、形や色、重さや大きさ、匂いも味も、それぞれ違います。触ったり、観察したり、味わったりして感覚的にとらえると、無限のりんごがあるのです。

 

新しいものを生み出していくには、そういった感覚の多様性を経験することが大切になるのだと思います。特に幼少期にはこうした経験をたくさんさせてあげたいものです。感覚的な多様性と、ものごとを抽象化してまとめ上げる二つの力によって、新しいものが生まれてきます。こどもには、感覚を耕すこと、感覚をイメージとしてまとめあげていく力、この両方が必要です。そして、それらは遊びの中にあるのですね。

 

発想が生まれるとき

 

「発想」は頭の中で突然浮かび上がるのではありません。素材に触れたり、動かしたりする中で、「こうしたい」という思いが生まれてくるのです。以前、大学の講義中に、図工が苦手な学生が「何も思い浮かばない」と言ったことがあります。手も感覚も何も動かしていない状態で、急に何かが脳に浮かぶと思い込んでいるんですね。そういう人には、まず、手を動かして素材に触れて、落書きでもいいからやりはじめると、自分の表現したいものが頭の中に浮かんでくるよと伝えます。みなさん誤解をしているような気がしますが、イメージは活動していく中で鮮明になっていくのです。それはどんな人でも、たとえダ・ヴィンチやゴッホだって同じだと思いますよ。

 

親にできる大切なことは、こどもがおもしろいことをしていたら認めてあげることですね。「土を触ったら汚いでしょ」と言うのと、「土って、おもしろい感じだね」と言うのではぜんぜん違ってきます。周囲の人に、自分がしていることを認められることが大事なのです。存在や行為を承認してあげることで、こどもは自分自身を肯定的に捉えることができ、それが自信につながっていきます。少し気持ちにゆとりをもって、こどもはおもしろい、こどものすることはおもしろいと思って見てあげてください。

 

こどもがすることを見ていると本当におもしろいですよ。大人がこどもに一方的にする育児ではなく、こどもとの日々が、こどもにとっても大人にとっても、新たなものを発見する場であったほうが楽しいのではないでしょうか。

 


※1:ヨウシュヤマゴボウは有毒のため、保護者の判断のもと取り扱うよう注意してください。取り扱う場合は、保護者同伴のうえ、決してなめたり食べたりしないようにしてください。また、色水遊びをするときは、直接手で触れないように手袋、ビニール袋、筆などを使用してください。

 

※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

辻先生のおすすめ本
書名:『じぶんだけのいろ いろいろさがしたカメレオンのはなし
他の動物や植物と違って、自分だけの色がないことに悩むカメレオン。ある日もう一匹のカメレオンに出会って、すばらしい答えを見つけます。
前回のコラムでもおすすめ本として登場したレオ=レオニの本。ページをめくるたび、次々と鮮やかな色に変わるカメレオンの姿とメッセージを親子で楽しんでみてください。
作:レオ=レオニ
訳:谷川俊太郎
出版社:好学社
定価:1,068円+税
PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

インタビュー写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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