質問:こどもが絵の具で暗くにごった色をつくります。色を混ぜすぎて絵をぐちゃぐちゃにしてしまいます。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:たくさんの色を混ぜてきたない色をつくるのは、楽しいことなのでしょうか?

ドロドロの色を見るとこどもの心に闇があるのではないかと心配になります。「そのへんでやめたら?」「もっときれいな色を使ったら?」と積極的に色の使い方を教えたほうがよいのでしょうか? こどもの色彩感覚を養う方法を教えてください。

 

A:大人が考える「きれいな色」は、ただの既成概念です。色彩感覚を養うには、混ぜて変化する色の多様性を経験することが大切です。

また、周囲にある様々な自然などの色に触れて感じることも大切でしょう。こどもの色を扱う感覚は、大人とは異なるものだということを頭に入れてほしいですね。

 

きれいな色はどんな色?

大人がよく言う「きれいな色」や「きたない色」というのは、ステレオタイプな場合が多いです。彩度と明度が高い色だけを美しいものだと思ってしまう人が大勢います。色は無限にあり、彩度や明度が低い色も、それぞれに特徴があり、そこに優劣があるわけではありません。また色は、となり合う色によって、同じその色が暗く見えたり、明るく見えたり、冷たく見えたり、暖かく見えたりする性質があります。

 

©CCAA アートプラザ「絵の具なないろ」

 

絵の具を混ぜて色が変化することに気づいた子は、おもしろくてどんどんやりたくなるのです。それはこどもの好奇心の現れです。そして、たくさんの色を混ぜていくと、彩度が低くなることにも気がつくのです。自分の好奇心から活動して、気づくことが大事ですね。その気づきが経験として積み重なっていきます。

 

しかし、はじめから大人が思う「きれいな色」ばかりを使わせていると、色に対する感覚や発見は、狭められてしまいます。絵の具で色を混ぜる行為はすごくおもしろいのでしばらく続きますが、ある時期がくるとピタリと止まります。それは、体の中に混ぜるおもしろさや、色の変化への驚きが積み重なった証拠です。こども自身が納得できたとき、興味が違う方向に向かって、明るい色を使ったり、単色で使ったりするようになります。小学校の現場で授業をしていたときにもそういうことがありました。色を混ぜることで、色の変化の多様性を経験しているのですね。

 

色と心の関係

心理的な観点から言うと精神的にストレスを抱えている子は、色を混ぜてにごらせることでストレスを発散させていると言えなくもない。でもそれは必ずしもそうだと言い切れるものではなく、そういった傾向もあるという程度です。

 

このコラムの第二回目でも話しましたが、かつては「心にストレスを抱えている子は紫色を使う」という説がありました。そこに因果関係はありません。ですから、表現された絵や、その子の活動の様子や表情などをトータルで見ていく必要があります。ただ単に紫を使ったからストレスを抱えていると判断するのは早計だと思います。これと同じように、「きたない色→心に闇がある」も因果関係はありません。同様に、生活などの他の様々な側面を見ながらこどもに向き合ってあげましょう。

 

2歳児の絵「はじめに茶系の色で、手形を打って遊んだ上に、さらに、青の絵の具でぐ るぐると、体を動かして描いています。色が混ざり込んでいくことで、より動きが見えていく おもしろさを感じているのがわかります。また、絵の具の感触も体で十分に味わって楽しんでいますね」(辻)

 

たしかに色には感情と結びついている部分があります。だからこどもの様子を見るひとつの手がかりになるかもしれません。でも、感情を表現するために、どんな色を使うかは描く人の自由です。激しい感情を表現するために強い色を使うこともあるでしょう。そうすることで感情が発散されて、心が落ち着けばいいのだと思います。どんな色を使っていても、それだけで心配することはありません。

 

また、色は「文化」とも結びついてもいます。「紫」や「黄色」などは、高貴な色とされてきました。こどもは、色を介して、自分を取り巻く、社会や自然や文化の影響を受けながら成長していきます。

 

色の知識

大人の色の概念を押し付けるのも考えものです。たとえばこどもが絵を描く際に、はじめに技法的な色使いを教えることはあまり意味がないでしょう。まずは、一緒に空を見たり、本物の葉っぱを見たり触ったりして、「どんな感じがする? この色を絵の具で表すにはどうしたらいい?」と、こども自身が感じたことから、色について関心を持つようにした方がよいと思います。

 

色の一般的な知識を大人がこどもに教え込むよりも、こども自身が、活動の中で色の多様性に気づくことが大切です。さらに、表現していく中で、自分が何を表現したいのかという思いと、色が結びつくことで、色に対する知識が自分のものになっていきます。

 

大人の感覚、こどもの感覚

幼児の場合、描くことは行為の延長です。行為の跡が紙の上に表れるのを楽しんでいるだけなのです。絵の具で空間を埋め尽くすこともあるし、画用紙からはみ出していくこともあるでしょう。大人のように、一枚の紙の全体を見渡しながら、空間のバランスをとって絵を描いているわけではないのですが、こどもの絵の「余白」の感覚は、すばらしいとよく感じます。それは本当に不思議です。こどもは、自分の身体感覚に基づいて描いているので、紙や壁などの描かれる場について、本能的に、直覚的に反応しているのかもしれません。色についても同じようなことを感じる場合が多々あります。

 

はじめて絵の具を使った1 歳半児の絵「冷たい色と、暖かい色の対比を感覚的に持ち込んで表現していますね。自然に色の感じをこどもが使い分けて表現しています。青や緑の中にピンクを置いたところにこどもの着想があります。それを自分で発見したことに、この絵のすごさがありますね」(辻)

 

こどもは画面に必要なことしか描かないものです。それなのに大人が「すき間なく、きれいに塗りなさい」というのです。しかしそれは、こどもにとっては不要なアドバイスです。

 

また、一枚の紙の上にレイヤーを重ねるように、同じ紙の上で別の絵を描き始めることがあります。一度描いた絵とは関係なく、その上にまったく違う絵を描くのです。大人には考えられないことでしょうが、画用紙は「一枚の統一された画面」とは違う感覚でこどもは捉えているんですね。

 

まとめ

大人のもっている美的感覚と、こどもの感覚はまったく違うものと考えたほうがよいでしょう。知識を教え込むのではなく、こども自身が表現活動の経験を通して、色をはじめとする多様な性質に気づくことで、知識が自分自身のものになっていきます。

 

三歳児の絵「形のあるものは描かれていませんが、色自体が表現の象徴となっている絵です。オレンジは秋、黄色は夏、青は海。緑は春。冬はそのとき好きじゃなかったから<なし>なのだそうです。色だけで四季を表現できることに気がついたのですね」(辻)

 

また、こどもが絵を描く環境に大人はまったく必要ないかというとそうではなく、そばにいる大人の励ましが、たいへん重要です。小さい子だったら大人がそばで見ていてくれたら安心して描けるでしょうし、大人の表情をちゃんと見ています。自分の行為を認めてくれているのかどうか…こどもはちゃんとわかっています。

 

現代は、PCやモニターからの強い光の色が氾濫する時代です。こうした色は刺激が強すぎます。それに比べ、絵の具などの物から発する色は、反射光なので、はるかに穏やかですし、こどもが色の感覚を育むのに、ちょうどよいメディアだと思います。

 


※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

辻先生のおすすめ本
書名:『もこ もこもこ
「しーん、もこもこ、にょきにょき」とふくれあがったものは、みるまに大きくなってパチンとはじけた。(出版社説明より)
詩人の谷川俊太郎と画家の元永定正による、言葉の響きと色が印象的な不思議な絵本。ぜひ一度この世界を味わってみて。
作:谷川俊太郎
絵:元永定正
出版社:文研出版
定価:1,300円+税
PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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