質問:こどもがお友だちの真似ばかりします。このままではオリジナリティのない子に育ってしまうのではないでしょうか。

こどもの「つくる」に関する保護者のお悩みに、楽しい図工のスペシャリスト辻政博(ひつじ先生)がお答えします。

Q:お友だちと並んで制作する場面で、こどもが周りの子の真似をしていました。

真似をせずに、もっと自分らしい表現をしてほしいのですが・・・。やがてオリジナルな表現ができるようになっていくのでしょうか?

 

A:人は、社会との関係の中で自分をつくっていきます。だから、周りの人との関わりの中でさまざまなことを真似る=自分の中に取り入れるのは、むしろ学び本来の姿だと言えるでしょう。

また、真似から始まって、その後にオリジナリティが出てくるという考え方は、少し変えたほうがよいと思います。今そこにいるこどもは、すでに、かけがえのない存在でオリジナルなものです。オリジナリティは、活動を通して自然とにじみ出てくるものです。

 

自分にとって大切なものを取り込むこと

以前に聞いた秋田喜代美先生(東京大学)の講演で「アプロプリエーション」という言葉が出てきました。日本語では「占有」。なにかを自分のものにするという意味ですが、これは他者の活動や考えを自分の中に取り込んでいく行為のことを言います。

 

 

実は「学ぶ」というのは、他者から自分にとって大切なものを取り込むこと(=アプロプリエーション)なのです。つい私たちは、個人内の能力ばかりに気をとられがちです。しかし、他者との関わりの中で育まれるものが「学び」と考えると、友だちの真似をすることは、当たり前のことだと考えられるのではないでしょうか。

 

こどもの主観からすると、自分の中に考えを取り込んだのだから、真似ではない。自分で考えて思いついたことなのです。オリジナリティというと、どうしても孤独な中で、ただひたすら自己の思いを表現すること、というイメージで考える人が多いかもしれません。けれども、周囲にあるさまざまな物事から、自分にとって価値のあるものを選び、取り込んでいくことは、重要な創造的行為なのです。そして、こどもにとっては、他者から取り込んだものも、自分の中に入ったときには「オリジナル」になるのです。

 

 

英語で“I”“me”という単語がありますが、“me”は他者から見た“私”です。そこには、いろいろな角度からみた、たくさんのがいます。それを“I”という“私”(自分)が受け入れることで自己が成り立つのです。社会との関係の中で自分ができあがっていくのだから、人との関わりの中でいろんなことを真似ていく、取り入れていくというのは、むしろ学びの本来的な姿として考えてもいいのだと思います。

 

「こうなってほしい」というイメージ

「それでは、個性はどうやって育つの?」と思われるかもしれませんが、静かな子もいれば活動的な子もいて、また、個性がないのも個性というか(笑)…それぞれによさがあるのです。あまり大人の理想を押し付けないほうがよいでしょう。とは言っても、私も親心は理解できます。こうなってほしいという気持ちとのズレとたたかうのが子育てですからね(笑)。


 

ただ、「自分の子にこうなってほしい」というイメージは、親の人生観や哲学、価値観などが基盤となりますので、親が自分自身の人生を多様で豊かなものにしていかないと、物事の捉え方や見方も広がりません。自分ができないことや、やりたかったことを、こどもに望むより、こどもの様子をよく見て、こどもが好きなものや、やりたいことを知って、やる気を引き出したほうが充実した学びになるのだと思います。

 

やがてオリジナリティが生まれるのか?

さきほど「自分の中に取り込んだらそれはオリジナルになる」と言いましたが、どのこどもも、彼/彼女自身がオリジナルですから、それでいいんです。すでにそれ自体が、かけがえのない存在なのです。図工の授業では、よく班で制作する場面があります。そのような活動ではグループごとに傾向が似てくることがあります。小グループの中で互いに影響し合って、自然と似てきてしまうんですね。それでも、それぞれのこどもが自分の感じ方でつくるので、似て非なるというか、まったく違うものになります。

 

 

いくら真似をしてもオリジナル性は消えません。体の大きさも生育環境も価値観も違うのですから、同じことをしてもまったく同じにはならない。それがオリジナリティなんですね。ことさらにオリジナリティを育てるための活動などしなくても、にじみ出てくるから大丈夫です。

もしかすると、こどもには“個という感覚が大人より少ないのかもしれません。殻がなくて、自然や世界や人とつながっている。乳幼児期は、とくに母親とは一体化していると思っているのではないでしょうか。境界をつくるのは大人です。こどもの心は、もっともっとやわらかいのでしょうね。

 


※各コラムでは、情報や内容について細心の注意を払っていますが、すべての方にあてはまるものではありません。 ご自身の判断のもと、あくまでも参考としてご利用ください。

辻先生のおすすめ本
書名:『わたし』

わたしは山口みち子、5才。お兄ちゃんからみると“妹”でも、犬からみると、“人間”。わたしはひとりなのに呼び名はいっぱい。社会関係を楽しく描きます。(出版社紹介より)

「むすめ」「いもうと」「まご」・・・。5歳の女の子「わたし」の呼び名が、相手との関係で変化する様子が描かれた絵本。今回、辻先生が言っていた「いろいろな角度からみた、たくさんのわたし」という話しと通じます。
作:谷川俊太郎
絵:長新太
出版社:福音館書店
定価:900円+税
PROFILE
辻 政博先⽣ つじ まさひろ

帝京⼤学教育学部教授。元東京都図画⼯作研究会会⻑。公⽴⼩学校で図⼯専科教員として30年間勤務。⾃分で、感じて、考えて、表現する、楽しい図⼯を目指している。NHK Eテレ「キミなら何つくる?」番組委員(H25〜27)など多くの活動に参加。また『図⼯のきほん⼤図鑑材料・道具から表現⽅法まで』(PHP研究所)など著書多数。ズッコファミリア「ひつじ先生の図工相談室」では、こどもの造形活動に関して保護者が抱える悩みや疑問を⼀緒に考えます。プライベートでは二人のお孫さんに夢中。

インタビュー写真/大崎えりや 取材・文/伊部玉紀

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