【インタビュー】Eテレ『大科学実験』プロデューサー森美樹さんの科学と美術、ふたつの“表現”

「おとなとずこう」では、さまざまな分野で活躍するキーパーソンに、仕事のことや、「つくる」にまつわるこども時代のエピソードをインタビュー。現在の自分にとって「つくる」がどう刻まれているのかを探求する。第一回目のゲストは、NHK Eテレの人気番組『discover science大科学実験』のチーフ・プロデューサ森美樹さんだ。科学と美術、こどもの頃の図工・美術体験について話を聞いた。

森さんの「つくる」

『大科学実験』はふたつの表現「科学」と「美術」によってつくられている。では、森さんがこどもの頃、図工や美術をはじめ「つくる」ことは好きだったのだろうか。

「今から考えるとすごく図工や美術が好きで、手を動かすことが本当に好きだったんだと思います」そう話しながらみせてくれたのが、小学校の時に森さんがつくった木彫りのティッシュケースなどの作品の写真。


 

「私、すごく不器用なんですが、彫刻刀で一つひとつ模様を彫っていったんです。最初は慎重に少しずつ彫り進んで、最後のほうは慣れて彫るのも大胆になっていますね。彫っている間は無心、終わりに近づくと、なんか寂しくなったのを覚えています。あとは絵本のシーンを切り絵で再現したり、友だちの顔を粘土でつくったり。手を動かしている間は、ほんとうに夢中になって。つくったものは、母がこうして残してくれているんです」


写真/森美樹

 

そして、森さんは、手を動かすことは、とても大切だと考えている。 「『大科学実験』の最初に『自分の手を動かして目で見て確かめることが大事だ』というナレーションを入れる予定だったんです。言われたことを記憶するとか、教科書に書いてあることを覚えるだけではなく、自分の手を動かすと、体の知識として自分の中に刻まれて、理解できるようになる。見ることや手を動かして感じたことは、その人だけが経験できたことであり、それはとても大事にしていかなければならないという意味を込めたくて。そういうことを積み重ねていかないと、人間はクリエイティブになっていかない。コンシューマー(消費者)にしかならない」

 

また、手を動かす図工・美術が好きだった反面、学校という枠が自分の気持ちにフタをしていたとも話す。

「図工や美術が好きとは思いながらも、学校は義務で勉強しなきゃいけない、ミッションをこなす場所というイメージがあって…。楽しんじゃいけないと思っていたところがあったのかもしれません。枠をね、はめたくないんですよ、本当は。小さい頃から絵が描けるようになりたいという気持ちはあったけど、不器用なんですよ」。そのうえで「人間にとって絵を描くというのは、自然な欲求としてあるのでしょう」と、森さんは続ける。理屈じゃなく、勝手に手が動いてしまう状況があると。そこから「科学を美術的に表現する教育みたいなことができないんだろうか」とずっと考えてきたという。森さんは生物を研究することで、絵を描くとは別に、自分の表現を見つけだし、『大科学実験』で「科学と美術」のふたつを結びつけたのだ。

自然と森さん

「毎朝、代々木公園のあたりを歩いて会社に通勤しているんですが、そうすると、あちらこちらにいらっしゃるじゃないですか。いろいろなものが。その方たちに声をかけながら歩いているんです」

いきいきとした表情で語る森さんの視線の先には苔、雑草、昆虫、「いろいろなもの」たち。自然は森さんにとって、圧倒的に感動を与えてくれる存在だ。


 

アフリカ南部にあるカラハリ砂漠で『大科学実験』の撮影をしたときの写真を森さんが見せてくれた。

「この写真、すごく大きな砂漠ですが、そこに、テクテク、テクテクと歩いて足跡をつけている生き物たち。みなさん忙しいなって。たぶん分析すると、小さい方もいるし、にょろにょろってした方もいるし、いろいろな方がいる。それら全部を悠久の砂漠が受け入れているというか、美しいというか。わたしは、大きなものと小さなものとか、悠久のものと一瞬のものとか、両極端のものが一緒になっているときに、ドキューンってくるんです」と、森さんはこどものように笑う。


写真/森美樹


©NHK/ NED/ JCC

 

これから大人になるこどもたちに伝えたいメッセージを尋ねた。

「こどもたちには、自分が『好きだな』と思うものにフタをせずに、好きだと思うままに夢中になってできることを見つけてほしいと思います。学校は『あなたが好きだと思えることを見つけるため、いろんなことを1回ちょっと、試してみましょう』という場所にして。自分が『好きだな』と思える瞬間をたくさん増やしていってほしい。私たち大人は、こどもたちにその機会をつくってあげたいですよね。そうやって、ひとつのことに熱中して好きなことをたくさん見つけていけば、こども一人ひとりが、生物が好きなら科学的な表現を、美術が好きなら芸術的な表現というように、自分自身の表現の形を発展させていくのだと思います。この『好きなことを見つける』『好きなことに熱中する』ということが、大人になって絶対に役に立つと思います。どんな表現の形を選んだとしても、どんな職業に就いたとしても、クリエイティブな大人として力を発揮できると思うんです」。


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PROFILE
森 美樹 もり みき

株式会社NHKエデュケーショナル 教育部 専任部長。 北海道大学理学部生物学科を経て、名古屋大学大学院理学専攻博士前期課程修了。1992年にNHK入局。2008年よりアル・ジャジーラ子どもチャンネルとの国際共同制作プロジェクト『discover science大科学実験』をプロデュース。その実績を基に、2013年よりNHKで子供教育コンテンツの国際国内展開戦略推進に携わり、ヨーロッパ・アジア・北米・南米・アフリカの制作者・放送業者とのネットワークを広げる。2016年6月よりNHKエデュケーショナル教育部にて、通信制高校生の高校卒業資格取得等に活用される「高校講座」統括として、主に通信高校現場と連携し活用される番組制作・プラットフォーム構築等に携わる。

写真/仁志しおり インタビュー・文/ズッコファミリア編集部

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