下町で、鉛筆製造にこだわって68年。北星鉛筆株式会社のサステナブルなものづくり

こどもが工作したり絵を描いたりするときに欠かせない道具や画材。一体どんな所でどんなふうにつくられているか、考えたことはありませんか? そんなものづくりの現場に潜入する、特集「工場見学」。今回は、鉛筆や色鉛筆をつくり続けて68年、東京・葛飾区にある「北星鉛筆株式会社」を訪ねました。

住宅密集地で異彩を放つ、鉛筆入りの社屋

 

こどもの筆記用具として、もっとも身近な存在「鉛筆」。現在、日本には40社ほどの鉛筆メーカーがあり、その多くが「東京の下町」として知られる葛飾区や荒川区に集中しています。東京で鉛筆をつくってるの?と、ちょっと意外に思うかもしれませんが、これはかつて東京が日本最大の木材集積地だったことに起因するのだそう。今回ご紹介する北星鉛筆が工場を構える葛飾区四つ木も、昔ながらの町並みに鉛筆関連会社が点在するエリア。四ツ木駅から商店街を抜け、住宅地を歩いていると、鉛筆が描かれた社屋が見えてきます。敷地内には、1日約10万本の鉛筆がつくられる工場のほか、鉛筆の歴史などを総覧できる体験型の展示館「東京ペンシルラボ」が併設されていて、予約すればだれでも見学OK。それではさっそく、全国でもほかに例をみないユニークな施設を覗いてみましょう。

 

意外と知られていない、鉛筆製造の過程

私たちがふだん何気なく使っている鉛筆は、どのような材料に、どのような加工を施してできあがっていくのでしょうか。鉛筆の分業化が進む昨今、北星鉛筆は芯こそ他社製品を使っているものの、それ以外のほとんどを自社で一貫して手がける日本でも数少ないメーカーのひとつ。今回は特別に、全工程を間近で見せていただきました。

 

1:木材を準備する


 

工場の1階にある「木工」セクションには、機械化された製造ラインの間をぬうようにして、木材がうず高く積み上げられています。これが鉛筆軸の材料。おもに使用されるのは北米産のシダーウッドで、かまぼこ板のように加工された「スラット」と呼ばれる状態で工場に届きます。

 

2:スラットに溝をつけ、芯を挟む


 

まずは、スラットに鉛筆芯を挟むための「溝」を彫ります。機械でスラット1枚につき9本の溝を彫ったら、芯を置いたうえに別のスラットを重ね、接着剤で固定。昔は膠(ニカワ)が接着剤として使われていた名残で、この作業を「カワ付け」と呼ぶ職人さんもいます。


 

3:ひと晩寝かせて接着剤を乾かす


 

接着剤で固定したスラットを並べて、さらにプレス機でプッシュ!4kgの重さでぎゅっと押さえつけ、ひと晩寝かせて接着剤を乾燥させます。接着剤が固まってしまえば、高いところから落としても、大きな衝撃を加えても、二度とはがれることはありません。

 

4:鉛筆のかたちに削る


 

スラットの長面が鉛筆の規格である178mmになるよう両端をカットし、さらに完成品のかたちにあわせて上板を削ります。かたちは丸、三角、六角などさまざまで、この段階になって初めて鉛筆の個性が顔を出します。上板を削ったら、下板も同じかたちに削ると同時に、スラットを縦に裁断。1枚のスラットを9本にバラします。やっと鉛筆らしくなりましたね。1階でおこなわれる「木工」の工程はここで終了です。


 

V字型の計量枡で数量を確認。ここまでの工程において、問題がないかどうか、職人さんが厳しくチェックします。

 

5:鉛筆軸を塗装する


 

原型が完成した鉛筆は、工場の2Fへ。ここで木肌のままの軸表面に色を塗っていきます。塗料タンクのなかに鉛筆を1本ずつズボッと突っ込み、約7mのベルトコンベアにのせて乾燥させ、また塗料タンクへ突っ込んで重ね塗り。塗料の蝋分が木の水分で変化するのを防ぐための「油止め」を含め、下塗り、中塗り、仕上げ塗りと、合計7~8回ほどこの作業を繰り返します。


 

単純作業に見えますが、製品の数だけ存在する色の調合をはじめ、塗料量の調節、ベルトコンベアの張度の微調整まで徹底する必要があり、じつはかなり難易度の高いパート。問題なく色を塗り終えたら、最後にパール加工やマット加工を施します。

 

6:体裁を整える


 

ここまでくれば、残す工程もあとわずか。芯の硬度や名前を入れたり(判押し)、製品によって異なる長さを微調整したり(小口切り)、金具をはめて消しゴムをつけたり、芯を出した状態で出荷するものについては先端をヤスリで削ったりして、仕上げていきます。

 

最後に人の目で外観チェックをして、問題がなければ全工程終了!このあと別の場所に移し、箱に詰めてから出荷されます。


 

以上、大まかな流れとして6つの製造工程を紹介しましたが、厳密に言うと、北星鉛筆で鉛筆が完成するまでの工程数は27にものぼるのだそう。どれも決して機械が勝手にやってくれるわけではなく、たとえば塗装のベルトコンベアひとつにしても、その日の湿度によってベルトの伸び縮みが違います。そのわずかな誤差ですべての商品を台無しにしてしまう可能性もあるので、職人さんたちはつねに慎重さと勘の良さが求められるのです。

 

そんな工程をすべてクリアして、私たちの手元に届けられる鉛筆。なんだか、使っているうちにちょっと短くなったからといって、簡単に捨てられなくなりそうですね。

 

サステナブルな「循環型鉛筆産業システム」を提唱

 

ここまで鉛筆の製造工程をご紹介してきましたが、じつは北星鉛筆の工場には、ユニークな仕掛けがあります。それは、1Fの「木工」セクションに張りめぐらされた太いパイプ。このパイプを通して、木材を切ったり削ったりしたときに生まれるおがくずを1カ所に集め、機械で圧縮して固形物に。それを今度は粉砕機に投入し、さらさらの粉末にします。粉末を糊と練り合わせれば、木を原料にした粘土のできあがり。その名も「もくねんさん」。北星鉛筆が2005年に開発したオリジナル粘土は、一般的な粘土より使いやすく、乾けば木のような質感になると評判を呼び、またたく間にヒットアイテムとなりました。


 

でも、なぜ鉛筆メーカーが粘土をつくったのでしょう。理由を北星鉛筆専務の杉谷龍一さんに伺うと、返ってきたのは「循環型鉛筆産業システムの一環です」という答え。循環型鉛筆産業システム…?その聞きなれない言葉には、同社が長年育んできた、あふれんばかりの鉛筆愛が隠されていました。


 

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INFORMATION


北星鉛筆株式会社:http://kitaboshi.co.jp/


東京ペンシルラボ見学

見学日:平日のみ
※土曜・日曜・祝日と、年末年始の前後2週間、お盆期間中は休館。

開催時間: ①10:00~
②13:00~(毎週火曜を除く)
③15:00~(毎週火曜日を除く)

人数:各時間帯50人まで

見学料:こども(3歳以上)/ 300円
大人(18歳以上)/400円 ※団体料金有り

申し込み方法: 事前予約制 ※詳細はHPにて要確認

お問い合わせ: http://kitaboshi.co.jp/pencil-lab/

写真/永峰拓也 取材・文/岸良ゆか

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