下町で、鉛筆製造にこだわって68年。北星鉛筆株式会社のサステナブルなものづくり

こどもが工作したり絵を描いたりするときに欠かせない道具や画材。一体どんな所でどんなふうにつくられているか、考えたことはありませんか? そんなものづくりの現場に潜入する、特集「工場見学」。今回は、鉛筆や色鉛筆をつくり続けて68年、東京・葛飾区にある「北星鉛筆株式会社」を訪ねました。

事業の原点は屯田兵にあり!?

北星鉛筆の創業は1950年ですが、そのルーツは江戸時代にまで遡ります。現社長である杉谷和俊さんの先祖は徳川幕府に書記として仕えていた人物で、幕府の解体後は屯田兵として北海道へ渡り、鉛筆の板材を製造する会社を立ち上げます。後年、出資先だった鉛筆製造会社と合併して東京で北星鉛筆を設立することになりますが、200年以上も前の原点は「書くこと」にあったのです。

 

明治時代には贅沢品だった鉛筆も、大正時代になると大量生産が始まり、急速に庶民に浸透します。その後、戦中の落ち込みを経て、日本の鉛筆産業がピークを迎えたのは戦後まもなく。その頃には、国内に150社ほどの鉛筆メーカーがありました。


 

当時は、学校でもオフィスでも、筆記用具といえば鉛筆だった時代。しかし、1970年代以降、ボールペンにその座を奪われると、鉛筆の生産量は下降の一途をたどります。北星鉛筆も会社の未来を憂うようになりますが、そのとき思い出したのが「鉛筆は我が身を削って人の為になり、真ん中に芯の通った人間形成に役立つ立派で恥ずかしくない職業だから、鉛筆のある限り、家業として続けるように」という、先祖代々伝わる言葉でした。

 

鉛筆は文字以外すべて使う

今後も苦境が予想されるなか、鉛筆をつくりつづけるにはどうすればいいか。思慮を重ねた結果、たどり着いたのが「循環型鉛筆産業システム」という考え方。沖縄では「豚は鳴き声以外すべて食べる」と言うけれど、ならば鉛筆も文字以外はすべて使えばいい。鉛筆をつくる際に出るおがくずも、捨てずに別の製品に再利用すればいい。それを売って生まれたお金を鉛筆製造に還元し、良い鉛筆を安価でつくる循環型のシステムをつくればいい。

 

それを実現するために試行錯誤を重ね、ようやく生まれたのが木の粘土「もくねんさん」であり、同じくおがくずを再利用してつくった「着火薪」といったアイデア製品。同時に、さまざまな付加価値をつけ、時代のニーズに応えた「大人の鉛筆」、タブレットに使える「タッチペン」といった新しい鉛筆の開発にも力を注いできました。


 

循環型システムといっても、自分たちのできる範囲でやるのが北星鉛筆のモットー。たとえば短くなりすぎて使えなくなった鉛筆は、無理にリサイクルしようとすると無駄にコストがかさみます。寿命を全うした鉛筆は、感謝したうえで供養してあげよう。そんな思いから、会社の敷地内に「鉛筆神社」までつくってしまったというのも、鉛筆愛が垣間見られるエピソードのひとつ。短くなった鉛筆5本を持ち込めば、新品の鉛筆1本と交換してもらえますよ。

 

「正しい鉛筆の持ち方」の大切さ

 

ここ数年、杉谷さんたちが頭を悩ませているのは、どうすればこどもたちに正しい鉛筆の持ち方を知ってもらえるか、ということ。いまも鉛筆はこどもたちにとって身近な筆記用具ですが、正しい持ち方を教えるためのノウハウが確立されていないため、学校ではきちんと教えてもらえないのだそう。「鉛筆の正しい持ち方を覚えれば、自然と姿勢が美しくなり、手も疲れないため長時間の勉強も苦になりません。また、指を使うことで手先が器用になり、脳も活性化される。本当にいいことづくしなんですよ」と杉谷さん。

 

正しい持ち方

 

そこで、正しい鉛筆の持ち方を教えてもらいました。まず、手のひらに卵1個を握るくらいの空洞をつくり、人差し指と親指、中指の3本で鉛筆をそっと握ります。このとき注意したいのは、親指を人差し指より高い位置にもってくること。脇を閉めて手を起こし、人差し指の先に入れる力を加減し、はらったり、とまったり、はねたり、文字の濃さを調整したりします。

 

間違った持ち方

 

一方、正しくない持ち方の代表例がこちら。このように3本の指で同じ箇所を握る方法だと、文字はすらすら書けますが、鉛筆の角があたる部分にペンだこができてしまいます。また、手に負担がかかって疲れやすく、勉強が長続きしません。持ち方が正しくても、脇を開いた状態で字を書くのはNGです。

 

北星鉛筆でも持ち方矯正のためのアイテムを販売してきましたが、そもそも正しい持ち方を知らない人が使っても、うまく機能しません。塾の先生に頼まれて杉谷さんがこどもたちに教えることもありますが、教えたときは改善するものの、家に帰ると元の持ち方に戻り、結局は正しい持ち方を覚えないまま大人になってしまいます。


 

本来はお箸の持ち方と同様、えんぴつやペンを握り始めた年齢から教えていくのがベスト。杉谷さんは、こどもがスプーンやフォークで食事するようになったとき、3本の指で持って食べるようにしつけ、指先を鍛える方法を推奨しています。

 

そして、杉谷さんが心から訴えたいのは、大人も鉛筆の持ち方を見直しませんか? ということ。こどもに鉛筆の持ち方を教えるには、まず大人が正しい持ち方を身につけ、日々の生活のなかで、繰り返しこどもに教える。それが唯一の方法だと言います。


 

この日も、北星鉛筆の工場と東京ペンシルラボには、大勢のこどもと大人が見学に訪れていました。鉛筆ができあがっていく工程を見て、鉛筆の歴史を知り、もくねんさんを手でこねて遊ぶこどもたちの、なんと楽しそうなこと!どんなにスマホやタブレットが普及しても、まだこの先しばらく、世の中から鉛筆と紙が消えることはないでしょう。そうあるかぎり、こどもにとって鉛筆は、もっとも身近な文具でありつづけるのです。心と体のすこやかな成長のため、あらためて親子で鉛筆に向き合ってみてはいかがでしょうか。

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INFORMATION


北星鉛筆株式会社:http://kitaboshi.co.jp/


東京ペンシルラボ見学

見学日:平日のみ
※土曜・日曜・祝日と、年末年始の前後2週間、お盆期間中は休館。

開催時間: ①10:00~
②13:00~(毎週火曜を除く)
③15:00~(毎週火曜日を除く)

人数:各時間帯50人まで

見学料:こども(3歳以上)/ 300円
大人(18歳以上)/400円 ※団体料金有り

申し込み方法: 事前予約制 ※詳細はHPにて要確認

お問い合わせ: http://kitaboshi.co.jp/pencil-lab/

写真/永峰拓也 取材・文/岸良ゆか

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