【インタビュー】アートディレクター・田中 元さんが実践する、会話をするように絵を描く・ものをつくる家族間のコミュニケーション

テレビCMや電車の車内ビジョンなどでおなじみの東京ガスのキャラクター「火ぐまのパッチョ」をはじめ、さまざまな企業の宣伝美術やプロモーションを手がける電通のクリエーティブ・ディレクター/アートディレクターの田中 元さん。プライベートでは高校1年の娘さんと中学1年の息子さんがいる二児の父であり、ハンドメイド雑貨店を営む奥さまと共に、日常生活の一部として家族間で絵を描く、ものをつくるといったコミュニケーションを図っているといいます。今回は長男のおうくんと過ごす休日のご自宅を訪ね、お話を伺いました。

日常の中で育む創作性

——ふだんお子さんとの時間はどんなふうに過ごしていますか?

 

こどもたちが成長したこともあって、小さい頃のように家族で出かけることは少なくなりましたね。でも、何か特別な時間を設けるというよりはふだんから比較的コミュニケーションがとれているほうだと思います。息子とはしょっちゅう近所の立ち飲み屋に行くんです(笑)。僕が飲んでいる横でジュースと好きなものを頼んで楽しんでいます。何軒か行きつけもあって。今日もこのあと、行くんだよね?


 

——中1にして立ち飲み屋とは!?ずいぶん大人びてますね(笑)。おうくんは立ち飲み屋のどういうところが好きなのですか?

 

まわりのお客さんと話すのが楽しいです。あと、いろいろ食べられるし、おいしい。ハムカツが好きです。(おうくん)

 

——なるほど。では、田中さんは家でお子さんと一緒に何かつくることはありますか?

 

去年まで恒例になっていたのは、夏休みの自由工作ですね。基本的には本人がつくりたいものを手伝うんですが、あまりに壮大なことを言う時があるので困ります(笑)。息子が小4の時につくった「ピタゴラ装置」は、電池で動いて、なかなかな完成度ですよ。さっき、久しぶりに動かしてみたけど、やっぱりこれすごいね。よくできてるよね。


 

あとは、小6の時に紙粘土でつくったコンバースのオブジェ。実物大のものが息子がつくったもので、ミニサイズは僕がつくったもの。横で息子がつくっているのを見ていたら刺激されて、一緒につくりました。


 

——え、両方ともすごい完成度ですね!おうくんのこだわりポイントは?

 

ピタゴラ装置はテレビで見ていて、自分でもやってみたいと思ってワイン箱を使ってつくりました。難しかったけど、動く球の通り道が、裏にまわってまた出てくるところにこだわりました。
コンバースは、何をつくろうかと迷っていたら、お母さんに「いま履いている靴を紙粘土でつくってみたら?」と言われて、やってみました。かなり履きこんでいたコンバースだったので、かかとのシワとか縫い目の点線とか紐の具合とか、本物に近づけるように細かいところまでつくり込みました。(おうくん)


 

ほんと、根気よくやったよね。彼は緻密な作業が好きですね。文系というより理系。でもプラモデルは完成形が見えていて、そこに向かうだけだから好きじゃないんですって(笑)。絵もなかなかうまくて、小学校の時に学校行事のしおりに採用されたことも。成長するにつれて描くものやつくるものがどんどん進化していて、見ていておもしろいです。(田中さん)

 

家族で「つくる」コミュニケーション

——自由工作以外にも“つくる”コミュニケーションをされているのですか?

 

わが家では特別なことと思っていなかったけど、そう言われてみると、誕生日やクリスマスは家族間で手づくりのメッセージカードやプレゼントを贈り合います。あとあれだ、ポスター。僕が出張に行って帰ってくると、玄関に毎回“おかえりなさい”と書かれた似顔絵入りのでっかいポスターを描いて飾ってくれるんです。いつからか恒例になっていて、あれを見ると嬉しいですね。


 

二人が小学校低学年くらいの頃に家族でよく遊んでいたのは「絵しりとり」。みんなで連想しながら絵を描いていくんですが、おうは“おんぶ”とか難しいのを描くんです(笑)。あれは楽しかったな~。

 

あと、家族みんなで少し前までハマっていたのは「消しゴムはんこ」です。今日も久しぶりにつくってみて楽しかったですね。おうがつくった「メンダコ」は目と体が二版になっていて、やるな!という感じです。僕がつくった「がっくりパンダ」もなかなかいいですよ。


 

——お二人ともさすがのクオリティですね。お話しや手を動かす様子を拝見していて、絵を描いたりものをつくったりする時間が日常の中にあって、家族間の自然なコミュニケーションツールになっているんだなと感じます。

 

そうですね。家族全員、手を動かすのが好きですね。特にこどもたちに絵を描きなさいとか美術がどうこうとは言ってないのですが、こうやって自然に興味を持って楽しんでやっている様子を見ると嬉しいですね。今後、こどもたちがどんな道で生きていくかはわからないけど、デジタルが当たり前になっているからこそ、何でも地道に手作業でやってみるのもいいんじゃないかなって思いますね。この先も自分の手で何かをつくる、生み出すことが楽しいと思える環境を日々の暮らしの中でつくってあげられたらと思います。


 

——おうくんは将来なりたい職業はあるんですか?

 

文房具が大好きなので、文房具をデザインする人になってみたいです。かっこいい見た目だけじゃなくて、小さくてもいろんな用途に使えるような。(おうくん)

 

その割にはよくペンとか壊してない?(田中さん)

 

違うの、あれは壊してるんじゃなくて、中身がどうなってるか見たいだけ。(おうくん)

 

ははは(笑)! なるほどそうなんだ。おもしろいなあ~。(田中さん)


 

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田中 元 たなか げん
電通クリエーティブ・ディレクター/アートディレクター

主な仕事に、東京ガス「火ぐまのパッチョ」、角川文庫「発見!角川文庫」、三井不動産グループ「三井でみつけて」、野村ホールディングス「日経STOCKリーグ」、世界水泳「2021福岡大会」、貞子3D「貞子増殖 渋谷イベント」、NPO富士山を世界遺産にプロジェクト、電通社会貢献活動 「広告小学校」他。主な賞暦に、ADC賞、朝日広告賞グランプリ、カンヌ メディアライオン、クリオ賞、NYフェスティバル、ロンドン国際広告賞、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、メセナアワード優秀賞、毎日広告賞、読売広告大賞、日経広告賞、ACC賞、JR交通広告グランプリ他。

写真/豊島 望 インタビュー・文/木下美和

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