【インタビュー】ダウン症のアーティスト・おがたりこさんファミリー「上手いかどうかより、りこそのものが絵に表れていればいい」

おがたりこさんは、本サイトの連載コラム「発達のイッポ」でメインアートを提供してくださったアーティストです。ダウン症で、言葉のやりとりが不得意なりこさんにとって、絵は世界とつながる大きな扉。福祉作業所での就労のかたわら休日に続けられている創作活動は、今や展覧会の開催からパッケージのコラボレーションまで、どんどん社会へ向けて広がってきています。そんなりこさんの絵の才能は、家族のどのような支えによって育まれてきたのか、ご両親の尾形雅子さん、敏朗さんにお話を伺いました。

絵を描くという自立の道を模索して

――りこさんが絵以外の表現の道に進むことも考えられましたか?

 

雅子 絵は基本的に誰でもできる。上手になることを目指すのではなく、りこそのものが表れていればいいと私は考えています。だから絵が一番合っていると思いますね。

 

――雅子さん自身も絵を自由に描いていて、りこさんもそれを感じて育った。雅子さんがこれまで選択してきた自由な創作環境もよかったんでしょうね。

 

雅子 「お花はこう描きましょう」と言われるのが、好きではないんです。絵は自由なメディアですから、りんごを赤や緑で塗らなくてもいいと思うのです。結局、私の好きなものしかやっていない(笑)。でも、りこも絵を人に見てもらうのは嬉しいと思いますし、親子で好きなら少々辛い道でも楽しく続けられると思います。

 

敏朗 りこにとって、人から絵をいいね、かわいいねって褒められたり喜ばれたりするのが、すごく励みになっているようです。褒められるとやっぱり伸びるんだなって実感します。

 

大作は柄を長くした筆で描く。F★E★Pの小林さんは、りこさんの絵は筆速や長く続くストロークが特徴なので、筆や紙が大きいと腕が動いて面白い表現になると話す。

書家のように豪快にひいた線に、水を吹きつけて滲みをつくる。水をドライヤーで動かして模様をつくることも。最近は小林さんのアイディアで、アクリル絵の具に墨を混ぜて使っている。

 

――2011年に開催された初個展はどんなだったのでしょうか。

 

雅子 りこが17歳の時に、銀座のカフェギャラリーで開催しました。日本で絵を売るのは難しいと思っていたのもあり、Tシャツやポロシャツ、トートバック、あとマグカップをつくりました。りこの作品がグッズの形でみなさんの手元に残っていくのもいいなと考えたんです。

 

――気合いが入りましたね。

 

雅子 やっぱり売上を上げたかったんです。発表だけすればいいやではなく、りこの自立のために売りたいという気持ちでした。

 

 

――絵で社会とつながる方法を模索されたわけですね。

 

雅子 知的障害が重度のほうなので、経済的に稼ぐことが難しくて、そこをなんとかできないかという思いがあります。障害者と健常者に分かれる道ではなくて、健常者と一緒に展示する場もあるので、区別なしに生きられるフィールドがあったらいいなと思います。

 

――お菓子のパッケージをコラボレーションするなど、活動は広がってきていますね。

 

雅子 すべてを経済的に成立させるのは難しくても、いろいろな人とつながるのは大事だと思っています。いつかバスや飛行機のラッピングも手がけられたらいいなって思います。はるくまエアとかね。

 

たくさんの“いいね”が次のステップにつなげてくれる

 

――両親から見て、りこさんの作品の一番のよさはどこにあると思いますか?

 

雅子 おおらかでのびのびしているところでしょうか。隣の人を気にしないで、自分自身が出せている。あと、他の人からは力強いと評価してもらえることが多いですね。

 

敏朗 迷いがないのはすごいと思います。それが強さになっているんでしょうね。発表当初は、癒されるという言葉をよく聞きましたが、今は生命力が溢れているといった感想が多いです。

 

――近作はますます躍動感が感じられますね。もし絵という自己表現の場がなければ、状況は違っていたかもしれませんね。

 

雅子 そう思います。今は絵を描き終わると、りこが自分から「発表する」と言うし、作品を見てくれる人がいるとはりきっています。

 

 

――これまで絵を発表してきたなかで、一番嬉しかったことは?

 

雅子 やっぱり絵が売れることが一番嬉しいです。それと賞をいただいたことですね。東京・青山にあるタンバリンギャラリーの展覧会で審査員個人賞を3回受賞し、すごく嬉しかったです。知り合いではないプロの方からりこの絵がいいと言われるので、自信になります。

 

敏朗 この賞は、障害者ということとは関係なく、作品そのものが評価されて選ばれるんです。僕らも歳をとるし、この子もいろいろな限界があるから、好きな絵を描くことが自立につながればいいなと本当に思います。

 

雅子 ワークショップや展覧会など、いろいろな場所に一緒に行ったのもよかったと思います。その都度出会いがあって、たくさんのいいねがまた次のステップにつながっていく。いいねをしてくれた一人ひとりに感謝しています。

 

 

――最後に、新しい挑戦をしながら、どうやってこどもの才能を見つけてのばしていけるのか、秘訣があれば教えてください。

 

雅子 親子で一緒に好きなことに取り組むのはいいんじゃないかなと思います。あと、こどもの表現を一般の方や専門家に見ていただいて評価をもらうのは大切だと思いました。SNSで発信したり、公募展に応募してみたりと、できることから少しずつ始めていけば、いろいろな人とつながり、輪が広がるのではないでしょうか。

 

インタビューを終えて

おがたりこさんのご両親は、「りんごは赤で描くべし」という先入観や、「障害者はこうあるべき」という固定観念からお子さんを守り、想像力と個性が存分に発揮できる創作の環境を整え、一緒に絵の世界を楽しまれています。そうして生まれるりこさんの絵の率直さは、既成概念に縛られがちで不自由さの感じられる世の中で、眩しいばかりに輝いて見えます。一心不乱に描かれていくりこさんの絵を間近にし、その制作を嬉しそうに見守るご両親の言葉から、こどもの自由な自己表現がもつ無限の可能性と、それを保護者が理解し、サポートすることの大切さを改めて教えられた気がしました。

りこさんの絵は、近頃はよりカオティックな抽象表現へと変化しています。それが今後どのように発展していくのか、これからも目が離せません。

 

 

  1. 1
  2. 2
PROFILE
おがたりこ アーティスト

1994年、東京都世田谷区に生まれる。ダウン症。幼少より絵を描き始め、2007年、母の通う絵画造形教室の作品展に参加し、以後4年連続出品。2010年、都立特別支援学校に入学。この頃よりさまざまなグループ展に参加し、発表の場を広げる。2011年、銀座のArt Space REVERSEで本格的な初個展を開催。以後2012、2013、2014、2016年と個展開催。2013年より世田谷の福祉作業所に適所。就労のかたわら休日を基本に制作活動を続ける。「ロバミュージアム2012」しりあがり寿マイスター賞、「ロバミュージアム2013」KIKIマイスター賞、「HUMAN MUSEUM 2018」ヒロ杉山マイスター賞受賞。お菓子のパッケージなどにも絵を提供している。

おがたりこ公式HP: https://www.riko10.com/

取材協力:F★E★P
F★E★P公式HP: http://fep-art.com/

写真/仁志しおり インタビュー・文/宮村周子

top

FOLLOW US

公式SNS