【インタビュー】「モリウミアス」油井元太郎さんがつくる、こどもたちの「学び」起点の復興メソッド 後編

さまざまな分野で活躍するキーパーソンに、仕事のことや、「つくる」にまつわるこども時代のエピソードをインタビューする「おとなとずこう」。今回は2回目のゲスト、油井元太郎さんのお話の後編をお届けする。アメリカから帰国して東日本大震災を目の当たりにし、油井さんはなぜ、宮城県石巻市のこどもの複合体験施設「MORIUMIUS(モリウミアス)」づくりに強い情熱を傾けているのだろうか。

悲劇の記憶をつなぐトンネルの向こう

川幅1キロを超える所も珍しくない北上川の河口付近は、とても雄大だ。車で石巻市街からその川沿いを30分ほどたどり、398号線に入って小渕山を貫く釡谷トンネルを南へ抜けると、まもなく眼下にきらきらと太平洋の水面が垣間見えてくる。リアス式海岸ならではの、感動的な海との対面ドラマを楽しめる瞬間だ。 だがこのトンネルは、いくつもの悲劇の記憶をつなぐバイパスでもある。東日本大震災の被災地で、児童・教員あわせて84人が津波の犠牲となった大川小学校など河口地域と、入院患者・職員ら64人が津波にのまれた雄勝病院を含む沿岸地域をつなぐショートカットだからだ。


 

油井元太郎さんは震災当時、まだキッザニア東京の仕事に忙しく従事していた。石巻との縁はなかったが、友人だった立花貴さん(現・公益社団法人「MORIUMIUS」代表理事)が仙台出身だったことから、被災地の中でも特に援助の手が届きにくい雄勝町の避難所や雄勝中学校へのボランティア活動を開始。そこから地元の方たちとの交流が深まり、人の縁を得ていくうち、廃校後約10年経つ、旧桑浜小学校の古い木造校舎があることを知った。


 

小さな山を背にして、海や川に近接する自然豊かな中にたたずむ、まるで映画に出てきそうな牧歌的な学び舎跡。その利活用を目指すプロジェクトには、油井さんをわくわくさせてあまりある「大きな可能性」が見えていた。こどもたちへ大切なことを伝えることと、震災復興とをひとつに編み上げる両立策だ。
「キッザニア東京で『アウト・オブ・キッザニア』(※1)を手がけたことから、田舎で暮らしている方たちの生き方や環境自体が貴重な教材だと思っていました」と、油井さん。農業や漁業など第一次産業の体験学習、特に自然の美しさや厳しさを、身をもって学ぶにはリアルな環境でなくてはいけない、と考えていた。


山で養われた、感覚的な判断力と確信

その実感のベースにあったのは登山を通して学んだこと、と油井さんは振り返る。
「うちの両親が山好きで、こどもの頃からよく山に連れて行かれました。その経験は大きく影響しましたね。人が作っていない自然環境に身を置くと、人間は弱者になってしまいます。特に山は過酷な環境でもあり、逆に居心地がいい面もあります。自分で判断する機会が多く、しかもロジカルよりも感覚的な判断が必要になります。その感覚はすごく磨かれます。座学ではとても身につけられないことです」


 

その確信のもと、古い木造校舎をモリウミアスにする構想の実行に踏み出した。2012年春にキッザニア東京の会社を退職すると、立花氏らとともに公益法人を設立。建築家ら様々なブレーン、アドバイザーらの協力を得て、この場、この機会に新しい施設が立ち上がること自体をクリエイティブなチャンスとする道を選び続けた。この施設の「食」を支えるかまどを作ったり、鳥や豚などの家畜を探して飼ったり、というひとつずつの進化プロセスは、手間がかかるが、人とのつながりから自然と生まれ、地域との絆になり、こどもや大人たちの学びの教材になっているという。


 

滞在するこどもたちが割った薪がウッドボイラーでエネルギーになり、ボランティアたちの手で作られた露天風呂を沸かし、施設で出た生活排水はバイオジオフィルターで浄化されて、やはり多くの人の協力で作られた田んぼで稲を育てる。養豚農家からきた子豚を飼育し、施設から出る残飯や生ゴミなどをエサに育ち、糞は堆肥にする---。
そもそもこのような、人を含めたエコロジカルなライフスタイルを提唱する「パーマカルチャー」のノウハウを指導した四井真治さん(※2)も、ボランティアで来ていた方の紹介で出会えたブレーンのひとり。人から人へ。情熱を伝播する口コミが多くの人材を呼び寄せてくれた。


モリウミアスにはどうして、人を引きつける力があるのだろうか

「生きるという、そもそものところに関わっているからじゃないでしょうか。『生きる力』を体感する、経験から学ぶことが今、とても大事だと思っています。どうやって食べ、生きていくか。都市型の生活ではそういう基本とかけ離れ過ぎていますが、自然に寄り添う暮らしの実践が雄勝にはあります。私たちは、その環境や住民とこどもたちをつないでいるコネクターの役割だと思うんです。一方で地元の方たちに、ふだんの自然との暮らしが、実は教育として非常に価値あるコンテンツであり、資源なのだということを理解していただくことも大切です」。
油井さんとその仲間の理想の大きさが、見えざる力を生んだようだ。


 

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PROFILE
油井元太郎 ゆい げんたろう

公益社団法人MORIUMIUS理事 /「モリウミアス」フィールドディレクター

1975年東京生まれ。アメリカの大学を卒業後、ニューヨークで音楽やテレビの仕事に就く。2004年9月に株式会社キッズシティージャパンの創業メンバーとしてキッザニアの日本導入に取り組む。2006・09年に東京と甲子園に施設をオープン、年間約80万人に体験を通じた学びの機会をつくる。2013年より宮城県石巻市雄勝町に残る築94年の廃校を再生するプロジェクトに着手し、自然の循環や土地の文化、多様性を体感する学び場として2015年にオープンさせ、以降こどもの教育を通じた町の新生を目指す。

 

モリウミアス公式HP http://moriumius.jp

モリウミアスの宿泊予約ページ https://moriumius-reservation.jp/moriumius

写真/永峰拓也 インタビュー・文/金子義則

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