【インタビュー】パリ在住アーティスト・絵本作家のバスチャン・コントレールさんがこどもたちに届けるのは、アートと出会う“場所”

さまざまな分野で活躍するキーパーソンに、仕事のことや、「つくる」にまつわるこども時代のエピソードをインタビューする「おとなとずこう」。3回目のゲストは、ステンシルを用いて、ミニマルで遊び心溢れるアプローチで絵本を制作しているアーティストのバスチャン・コントレールさん。カウンセラーという仕事を持ちながら、独学でアートを学び、アーティストとして活動し、こどものためのワークショップを開催する彼にとって「つくる」こととは何かを聞いた。

作業に没頭するこどもたちを見守って自由な創作に導く

夏休みも終わろうというある日。銀座のギャラリーにこどもたちが集まってきた。こどもたちが囲むテーブルの上には、黄、青、緑、赤のアクリル絵具とスポンジローラー、そして丸や三角、有機的な曲線で囲まれた形、U字型や星型などさまざまな図形に切り抜かれた厚紙が置かれている。今日開催されるのは、フランス人アーティストのバスチャン・コントレールさんのワークショップ「ステンシルで絵本をつくろう」。ステンシルを使った作品や絵本を発表しているバスチャンさんがこどもたちにその手法を教え、こどもたちはステンシル型のシンプルな図形から発想した絵柄やシーンを一枚一枚描いていく。


 

たとえば、ステンシル型で描いた図形を雲に見立ててそこから降る雪を表現したり、星型に茎を描き加えて花に、逆さまにしたU字型に一本の道を書き足してトンネルにしたり…。そうやって自由な発想で描いた何枚もの絵をまとめ、こどもたちは一人ひとり冒険物語や日常の小さな物語に仕立てて絵本を完成させる。初めはおそるおそる手を動かしていたこどもたちも、じきに創作に没頭し、のびのびとそのクリエイティビティを発揮した。
「ワークショップでは、こどもの創作に手を出さないように気をつけています。僕はこどもたちを見守り、躊躇している子を勇気づけたり、安心させたりするだけ。自分たちのやりたいように進めてほしいんです」と、バスチャンさんは微笑んだ。


生まれ育った文化はこどもたちのなかに自然と息づく

バスチャンさんは、パリのポンピドゥー・センター(※1)でもこどものためにステンシルのワークショップを行っている。ワークショップに参加した日仏それぞれのこどもたちの印象を聞いてみると、どちらのこどもたちも、ステンシル型のユニークな使い方を発明したりイマジネーションが豊かに広がったりする様は共通だという。一方で、特に日本のこどもたちの集中力やまじめさには、感銘を受けたという。


 

「かなり長い時間、創作に没頭している姿は印象的でしたね。自分のイメージしたとおりのものができないと悔しがったり、何度もトライしたりする姿も。完成した作品の違いはというと、フランスのこどもたちの作品は、いろんなものを描き込んでいて仕上がりはデコラティブ。日本のこどもたちはステンシルで描いた図形を何に見立てるかという発想が先にあって、それに向かって仕上げているようで、描き込みは少なかったですね」


 

このようなそれぞれの特徴はどこから生まれるのか、バスチャンさんに訊いてみると、「日本文化についてまだ詳しくないので、思いつきなのですが」と前置きして曰く、それは「文字」ではないか、と。漢字はとても絵画的なものに感じるという。確かに漢字は表意文字。その漢字に慣れている日本のこどもたちだから、図形から何かを発想することに慣れているのかもしれないという推察だ。古来より日本の文化には、対象を何か他のものに「見立てる」文化がある。石庭を海や湖になぞらえたり、落語では扇子ひとつで蕎麦を食べる様子を表現したり…そんな「見立て」は日本の美意識のひとつだ。何かシンプルな図形を見て想像力を膨らませ、別の何かに見立てるという行為は、日本の文化の中で育つこどもたちの心に自然と刻まれたくせのようなものなのかもしれない。バスチャンさんの話を聞いてそんなことを思わされた。


絵本やワークショップを通じて“目を開く”

バスチャンさんにとってステンシルは、シンプルな抑制された表現の中で美を追求し、メッセージを伝える手段だ。そして絵本というメディアは、こども向けゆえに自由な発想で自由な表現が可能な出版物。自身で絵本を手がける以前から絵本が好きだというバスチャンは、二人のこどもの親となった今、絵本はますます身近で大切な存在だという。
「好きな絵本作家のひとりがレミー・シャーリップ(※2)。ミニマルな絵ですがいつも遊び心を感じられるのが魅力だと思います」
バスチャンさんの絵本も、ミニマルな絵と遊び心に溢れている。最初に作った絵本『LES INTRUS(侵入者)』は、ピンクとグリーンの2色を用いてステンシルで刷られたモチーフの中で、ページごとに仲間外れを探すもの。たとえばハチやてんとう虫など羽のついた虫が並ぶページの中には、飛行機が紛れている。あるいは、テントやビル、工場などの建築物の絵の中には2段重ねのケーキが潜んでいる。「(この本の)イメージの並べ方は示唆に富んでおり、間違い探しの単純な楽しさに魅力を添えている」(The Wall Street Journal、出版社サイトより)と高く評価されている。


 

「絵本は、ただ美しいだけではだめ。本質的なことにこどもたちが触れられるような作品であるようにと、気をつけています。シンプルな表現で、テーマを明確に伝えることを大切に創作しているんです」
絵本とは、こどもが最初に触れるアートだといえる。もしかしたらそれがこどもの美意識の基礎となり、表現することへの欲求のきっかけになるかもしれない。だからこそ、バスチャンさんはこだわりを持って絵本づくりに取り組んでいる。ただし絵本の中では決して説明をしすぎない。ワークショップで、こどもたちが自ら表現や創作の楽しさを見つけるため「手を出さず、勇気づけるだけ」であるように、絵本の中でもバスチャンさんはこどもたちをそっとリードしている。


 

「ワークショップは手を動かしたり考えたり発想したりしながら、何度でも挑戦するというプロセスを大切にしています。絵本では自分の目で絵を見つめて考え、見る目を鍛えてほしいなと思っています」
絵本とワークショップは補い合うものであり、別のものでもある。ただ、どちらの活動においてもバスチャンさんが願うことはひとつ。「こどもたちとアートとの出会いを手助けしたい」ということだ。
「バウハウスに学び、のちにバウハウスで教鞭をとったジョセフ・アルバース(※3)は、見ることにこだわり、彼の教育の意味を『目を開くこと(to open eyes)』と言っていました。私もワークショップや絵本を通じてこどもたちの『目を開くこと』の手助けをしたい、そういう思いで活動をしているんです」


 


※1:ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター。図書館や美術館、映画館などが入る総合文化施設。国立近代美術館は、近現代美術のコレクションとしては欧州最大の規模。
※2:アメリカの絵本作家。作品に『いたずらこねこ』や『よかったねネッドくん』など。舞台芸術家としても活躍。
※3:ドイツ出身の美術家。バウハウス(ドイツで設立された工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育を行った学校)に学び、バウハウスで教鞭をとる。バウハウス閉鎖に伴い、アメリカに移住し美術教育を継続。バウハウス的な教育理念をアメリカにもたらした。

 

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PROFILE
バスチャン・コントレール Bastian Contraire

1982年生まれ、パリ在住。2008年、ロミーナ・ペラガッティ(Romina Pelagatti)とともに、オルタナティブの出版社「Papier Gaché(無駄になった紙)」を創立。2016年、初めての絵本『LES INTRUS(侵入者)』をAlbin Michel社から出版。英語をはじめ4カ国語に翻訳され、動物編、乗り物編とシリーズ化もされた。常に、ミニマルだが遊び心溢れるアプローチで絵本を制作している。2018年、ポンピドゥセンターより『Bleu Sourire(青いスマイル)』を出版し、子供向けのワークショップを開催。また、ZINEのフェスティバル「Fanzines!」をロミーナ・ペラガッティ(Romina Pelagatti)とフォルカー・ジマーマン(Volker Zimmermann)とともに2010年に立ち上げ、最も新しいフランスのグラフィックシーンを、小出版の世界から紹介することに成功している。
バスチャン・コントレール公式HP:http://bastiencontraire.com

 

撮影協力:クリエイションギャラリーG8
グラフィックデザインやイラストレーション、写真等、メディアを支えるビジュアル表現。これらビジュアルコミュニケーションをテーマに、日本を代表するクリエイターや優れたデザインを紹介する企画展を行っている。2018年8月に、初となるこどものためのワークショップと展覧会「クリエイション・キッズ・ラボ」を開催。バスチャン・コントレールをはじめ、トラフ建築設計事務所やミントデザインズなどがワークショップを行う。株式会社リクルートホールディングスが運営。

クリエイションギャラリーG8公式HP:http://rcc.recruit.co.jp/g8/

写真:豊島望 インタビュー・文:川瀬佐千子

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