【インタビュー】パリ在住アーティスト・絵本作家のバスチャン・コントレールさんがこどもたちに届けるのは、アートと出会う“場所”

さまざまな分野で活躍するキーパーソンに、仕事のことや、「つくる」にまつわるこども時代のエピソードをインタビューする「おとなとずこう」。3回目のゲストは、ステンシルを用いて、ミニマルで遊び心溢れるアプローチで絵本を制作しているアーティストのバスチャン・コントレールさん。カウンセラーという仕事を持ちながら、独学でアートを学び、アーティストとして活動し、こどものためのワークショップを開催する彼にとって「つくる」こととは何かを聞いた。

アートは学ぶのではなく楽しみや喜びを感じるもの

実は、バスチャンさんはアーティストである傍ら、心理学者という肩書きも持ち、カウンセラーとしても仕事をしている。大学では心理学を専攻しており、絵の勉強をしたり美大に通ったりはせず、創作は独学で身につけた。しかし、こども時代の話を聞いているとアーティストとして表現活動をすることになったのは自然な流れだったのではないかと思わされる。たとえば、彼の育った家はとにかく本がたくさんあって、絵本はもちろん画集など大人の本にも「気分や興味に合わせて」自由に触れることができたのだそう。また、家の中でアートや創作に触れるだけでなく、美術館へもよく連れて行ってもらったという。
「こどもの頃に両親にいろんな美術館に連れて行ってもらいましたが、正直その時には印象派の絵画を見てもよくわからなかった。美術館のあとに行く公園や遊園地が楽しみで、美術館にはついて行っていたという感じですね(笑)。そうやって小さい頃に名画をいろいろ鑑賞したことが今の自分に影響を与えているかというと、もちろん見たものは心に残っていますから影響がないとは言いませんが、それよりも、美術館で絵を楽しむ両親を見て育ったことの方が大きいです。両親の姿に、アートを楽しむよろこびを教えてもらったような気がします」


 

小学校や中学校で、日本の図工や美術のような授業はなかったのかと訊ねると、フランスの小学校では芸術の授業はないのだという。
「幼稚園では絵を描いたり工作をしたりしましたが、小学校に上がって文字を書いて学ぶということが始まってから、授業で絵を描くことはありませんでした。残念なのは、小さな頃に絵が好きでも機会がなくなってやめてしまうこどもが少なくないことです」
しかし、バスチャンさんは絵を描くことをやめなかった。授業中にもノートに絵を描いて、ページが絵で埋まってしまったこともしばしば。日本でも絵の好きなこどもたちがやるように、好きなキャラクターを描いてみたり、自分でマンガを描いてみたり、あるいはクラスの友だちの似顔絵や先生たちの似顔絵ももちろん描いた。
そうやって絵を描くということは、バスチャンさんにとっては息をするように当たり前の行為であり、自分の人生を形づくるもののひとつ。カウンセラーというプロフェッショナルと並行してアーティスト活動を行なっているのも、ちっとも不思議なことではないのだ。


アートに触れ創作活動をすることで人生はより豊かになる

話をもどして、学校での芸術教育についてもう少し伺おう。ステレオタイプではあるものの、フランス、とくにパリは多くの芸術家を育て、今も多くの美術館やギャラリーが並ぶ芸術の街というイメージ。そんな土地柄の学校で芸術の授業がないということが、にわかには信じ難い。


 

「でも、課外授業で学芸員に連れられて美術館のツアーがあったり、クラブ活動としてデッサンや工作などのアクティビティを選択したりすることができます。また、学校の外では私がやるようにアーティストが先生となるワークショップもたくさんあります。アートに興味があればいくらでもそれに触れるチャンスはあるのです」
バスチャンさんが両親に連れられて美術館へ通ってアートに触れたように、日常の中にアートに触れる機会はたくさんあるというわけだ。
「ただ、全員がそういった活動に参加するわけではありません。日本は小学校や中学校でも図工や美術の授業があっていいですね。みんなに等しくアートに触れるチャンスがあるということですから」


 

アーティストになりたいと夢見るこどもだけでなく、すべてのこどもに芸術教育は必要だろうか?そもそも、私たちの人生に芸術は必要だろうか?そんな質問を最後にバスチャンさんに投げかけてみた。
「私はふたつの仕事を持っています。その片方であるアーティストとしての創作活動がなくなったら、私の人生には何かが欠けてしまうような気がします。アートは、日々をより豊かにしてくれ、好奇心を刺激してくれるものです。脳の中のいろいろな部分を働かせるのはとても大事で、アートに触れることはそうやっていつもと違う部分の脳を刺激することになります。そもそも、アーティストやクリエイティブに従事する人とそうではない人とにかかわらず、誰だって創作活動をすることはできるのです。すべての人たちが創造する時間を持てる、そんな社会が私の理想の社会です」


 

通訳:貴田奈津子

  1. 1
  2. 2
PROFILE
バスチャン・コントレール Bastian Contraire

1982年生まれ、パリ在住。2008年、ロミーナ・ペラガッティ(Romina Pelagatti)とともに、オルタナティブの出版社「Papier Gaché(無駄になった紙)」を創立。2016年、初めての絵本『LES INTRUS(侵入者)』をAlbin Michel社から出版。英語をはじめ4カ国語に翻訳され、動物編、乗り物編とシリーズ化もされた。常に、ミニマルだが遊び心溢れるアプローチで絵本を制作している。2018年、ポンピドゥセンターより『Bleu Sourire(青いスマイル)』を出版し、子供向けのワークショップを開催。また、ZINEのフェスティバル「Fanzines!」をロミーナ・ペラガッティ(Romina Pelagatti)とフォルカー・ジマーマン(Volker Zimmermann)とともに2010年に立ち上げ、最も新しいフランスのグラフィックシーンを、小出版の世界から紹介することに成功している。
バスチャン・コントレール公式HP:http://bastiencontraire.com

 

撮影協力:クリエイションギャラリーG8
グラフィックデザインやイラストレーション、写真等、メディアを支えるビジュアル表現。これらビジュアルコミュニケーションをテーマに、日本を代表するクリエイターや優れたデザインを紹介する企画展を行っている。2018年8月に、初となるこどものためのワークショップと展覧会「クリエイション・キッズ・ラボ」を開催。バスチャン・コントレールをはじめ、トラフ建築設計事務所やミントデザインズなどがワークショップを行う。株式会社リクルートホールディングスが運営。

クリエイションギャラリーG8公式HP:http://rcc.recruit.co.jp/g8/

写真:豊島望 インタビュー・文:川瀬佐千子

top

FOLLOW US

公式SNS